生体の構成 体の基本―細胞 人体を構成する元素
全ての生命体を構成する主な物質は水と有機化合物である。 生体内では水が溶媒として使われるので、有機化合物の性質を考えるとき、それらが水に溶けるかどうかは1つのポイントである。生体物質の多くは水に溶けるが、髪の毛や皮膚のタンパク質のように、水にも油にも溶けないものもある。レシチンは水にも油にも溶ける。このような性質を両親媒性という。
有機化合物の原子団の名前
原子団 名称 性質 生体物質
CH3-(CH2)n- アルキル基 疎水性。CH3- (メチル基)、CH3-CH2- (エチル基)など アミノ酸、タンパク質、脂質
>C=C< 二重結合 疎水性。酸化され易い。付加反応や重合反応を起こす。
(例) CH2=CH2 + Br2 → CH2Br-CH2Br
脂質、ビタミン、補酵素
アリル基 疎水性。C6H5- (フェニル基) アミノ酸、タンパク質
-OH ヒドロキシル基 親水性。R-OHをアルコール(中性)、C6H5-OHをフェノール(弱酸)という。 アミノ酸、タンパク質、核酸
-NH2 アミノ基 親水性。塩基性[-NH2 + H+ → -NH3+]。R-NH2をアミンという。 アミノ酸、タンパク質
-SH チオール基 親水性。弱酸性[R-SH → R-S- + H+]。 還元作用を持つ(生体内の還元剤)。 アミノ酸、タンパク質
-CHO アルデヒド基 やや親水性。中性。還元作用を持つ。R-CO-R' (R,R'≠H)をケトンという。 糖質、補酵素
-COOH カルボキシル基 親水性。弱酸性[R-COOH → R-COO- + H+ アミノ酸、タンパク質
-CONH2 アミド基 親水性。 アミノ酸、タンパク質
生体内の有機化合物をつなぐ結合
化学式 名称 性質 生体物質
-CONH- ペプチド結合 やや親水性。加水分解される
[R-CONH-R' + H2O → R-COOH + R'-NH2]。
ペプチド、タンパク質
-O- エーテル結合 やや親水性。単糖類をつなぐ場合はグリコシド結合といい、加水分解される
[R-O-R' + H2O → R-OH + R'-OH]。
糖質
-COO- エステル結合 やや親水性。加水分解される
[R-COO-R' + H2O → R-COOH + R'-OH]。
脂質
-S-S- ジスルフィド結合 疎水性。還元されて切断される
[R-S-S-R' + 2H → R-SH + R'-SH]。
ペプチド、タンパク質、補酵素
-O-P(=O)OH-O- ホスホジエステル結合 親水性。酸性。加水分解される
[R-O-PO2H-O-R' + H2O → R-O-PO3H2 + R'-OH]。
核酸、リン脂質
生体を構成する成分には次のようなものがある。
脂質:
リン脂質や糖脂質は細胞膜の成分。また、リポタンパク質も脂質を含む。
糖質:
単糖類(D-グルコースなど)、二糖類、多糖類。細胞壁や糖タンパク質を構成。デンプンは貯蔵栄養。
タンパク質:
アミノ酸から成る。酵素は生命活動を支える働き者。細胞膜にもある。 毛髪、腱、筋肉はタンパク質が主。
核酸:
遺伝情報を司る。この情報を基にタンパク質がつくられる。
その他:
体液や細胞質の水にはいろいろな無機イオンが溶けている。Ca2+, Na+, K+, Mg2+, Cl-, HCO3-, HPO42-など。

ビタミンの一部は補酵素(酵素の働きを補助する有機化合物)として利用される。

生体の構成

個体発生の過程では,1個の受精卵が細胞分裂と分化を繰り返し,60兆個もの細胞に達する。これらの細胞は集団をつくって組織,器官をなし,人体を構成している。それぞれの器官(臓器)は特有の働きをすることによって,生命体の様々な働きを遂行している。生き物は一定の階層構造の下にできていて,それに伴う規則性が存在。
 
高分子: タンパク質,核酸,多糖類
3つ。脂質は多数集合した構造をとる。
器官とはたらき
器官の種類と機能
器官系 主な器官 主な働き
消化器系
呼吸器系
循環器系
泌尿器系
生殖器系
内分泌系
神経系
感覚器系
筋骨格系
口腔,胃,小腸,大腸,肝臓,膵臓
肺臓
心臓,血管,リンパ管
腎臓,膀胱,尿道
生殖器,輸精管,輸卵管,子宮,睾丸
脳下垂体,甲状腺,副腎,膵臓,性腺
脳,延髄,脊髄,自律神経,体性神経
目,耳,鼻,舌,皮膚
筋肉,骨格,関節
食物の消化・吸収
酸素・二酸化炭素の交換
血液とリンパ液の循環
水と老廃物の排泄
種属保存のための生殖
ホルモン合成・分泌
刺激の伝達・調節
刺激の受容
体支持,運動,造血
主な器官とはたらき
器官 はたらき
肝臓

肺臓
心臓
腎臓
膵臓
1200-1400 gの臓器。糖質,タンパク質,脂質の合成・分解・貯蔵。アンモニアなど有害物質の無毒化。
酸素・二酸化炭素のガス交換。肺胞数は6億。表面積60 m2
血液循環のポンプ。1回70 ml,1日約7000 l の血液を送る。
一対のソラマメ状。血液をロ過し,老廃物を尿にする。栄養素や水を再吸収。
消化酵素の製造と外分泌。インスリンやグルカゴンなどのホルモンを製造・内分泌。
人のからだの組織
組織=同じ働きをする細胞の集団
組織 はたらき
 上皮組織
動物体の外表面や,管腔(消化管,呼吸器,泌尿器,生殖器など),体腔(心膜腔,胸膜腔,腹膜腔)などの表面をおおう細胞集団。細胞相互が密接して配列し,細胞間のすきまが少ない。
 支持組織
   結合組織

   軟骨組織


   骨組織
結合組織,特殊に分化したな結合組織(軟骨組織,骨組織,血液とリンパ)を総称して支持組織という。
動物体や各器官を支持したり,器官と器官あるいは器官内で種々の組織を結合し,それらに一定の形態と位置をたもたせる組織。細胞間には多量の水分・無機塩が存在。多くは中胚葉に由来。
線維性結合組織で,硬骨とともにヒトなど脊椎動物の骨格を形成している。骨よりもやわらかいが弾力性があり,軟骨細胞,細胞間質の軟骨基質,軟骨をつつむ軟骨膜で構成される。コラーゲンからなるゼリー状の軟骨基質の中に,球形の軟骨細胞がうめこまれている。
ハイドロキシアパタイト(水酸化リン灰石)の結晶体で構成される硬い無機性基質,および,コンドロイチン硫酸の粘液状の有機性基質,コラーゲンがそれらに埋まってマトリックスを構成する。
 筋組織
筋線維からなる組織,収縮能を有する興奮性組織。「筋線維」とは「筋細胞」のこと。個体発生学的には,一部の例外を除いて,「中胚葉」に由来。アクチンフィラメントと太さ十数nmのミオシンフィラメントからなる。
 神経組織 神経系を構成し,興奮を伝える性質をもつ組織。神経細胞は核をもつ細胞体と神経突起からなり,ニューロンと呼ぶ。

体の基本―細胞―

細胞の構成
全ての生命体の構造と機能の単位は細胞(cell)である。細胞には構造的に原核細胞と真核細胞 (eucaryotic cell)の2つがある。それ以外に,生命体と物質の中間的なウィルス(virus)がある。真核細胞は核をもつ細胞で,動植物,酵母,原生生物を構成する。生体を理解する上で,細胞に関する知識は重要である。ここでは,真核細胞について述べる。
細胞内小器官
真核細胞は10〜100mmの大きさで,細胞内にはミトコンドリア小胞体ゴルジ体リソソームなどの様々な小器官があり,細胞内が細かく仕切られている。(nucleus)には遺伝子の実体であるDNAが含まれる。核は核膜で覆われている。核の中には通常濃く染色される核小体がある。植物には,動物にはない葉緑体なども存在する。
真核細胞の小器官
染色体(DNAとタンパク質の複合体)と核小体がある。細胞質とは核膜で隔てられ,核孔で連絡している。核酸代謝の場。
核小体 RNAに富む。リボソーム合成を行う。
ミトコンドリア 楕円体状の小体で二重膜をもち、内膜は内側にひだをつくり,クリステを構成。1つの細胞に1〜5000個存在。エネルギー (ATP)を生産する場。
滑面小胞体 細胞膜や核膜に連結している。物質の輸送路。
粗面小胞体 微細顆粒(リボソーム)が結合した小胞体。タンパク質合成。
ゴルジ体 小胞体の一部が分化した器官で、タンパク質などを含む分泌液を貯蔵。糖を結合させる酵素が存在。ここから,細胞内外へのタンパク質の輸送が起こる。
リソソーム タンパク質、核酸、脂質分解酵素を含む顆粒。
細胞膜の構造
細胞は種々の膜構造で構成されている。細胞膜の厚さは約10 nmで,形質膜(細胞膜),核膜小胞体膜ゴルジ体膜リソソーム膜ペルオキシソーム膜ミトコンドリア膜(内膜,外膜)などがある。膜は生命現象の発現の場である。膜の主成分は,リン脂質や糖脂質などの極性脂質とタンパク質で,コレステロールも重要な働きをする。
 リン脂質疎水部は二重層をなして厚さ6〜7.5 nmの2分子膜を形成している。膜の表面や膜中に膜タンパク質が浮遊し”膜は絶えず動いている”。真核細胞の膜では,細胞質側にスペクトリン,アンキリンなどのタンパク質からなる網目状の裏打ち構造が広がり,これがさらに,細胞骨格タンパク質(マイクロチューブル,マイクロフィラメント,中間径フィラメントなど)と連結し,膜を支えている。
細胞膜の構造
細胞膜は,リン脂質や糖脂質,コレステロール,タンパク質からなる。
細胞質側にスペクトリン,アンキリンなどのタンパク質からなる網目状の裏打ち構造が広がり,これがさらに,細胞骨格タンパク質(マイクロチューブル,マイクロフィラメント,中間径フィラメントなど)と連結。
細胞膜の重要な働き

人体を構成する元素

生体を構成する分子の大部分は水で,これ以外に,タンパク質10-15%,核酸2-7%,糖質と脂質がそれぞれ2-3%含まれる。
人体の構成元素
主要元素 主要元素 O (65%),C (18%),H (10%),N (3%)
準主要元素 Ca (2%),P (1.1%),K (0.35%),S (0.25%),Na (0.15%),Cl (0.15%),Mg (0.05%)
微量元素 Fe 0.004(%),Cu (0.00015%),Mn (0.0003%),Mo (%),I (0.00004%),Cr,Co,Se,Zn
超微量元素 As,B,Br,Cd,F,Pb,Li,Ni,Si,Sn,V
主な元素の生体内でのはたらき
水・有機化合物(タンパク質,脂質,糖質,核酸)の構成元素 炭素,酸素,水素,窒素,リン,硫黄
骨など,体を支持し堅さを保つはたらきをする元素 カルシウム,リン,マグネシウム
体液中でイオンとなり浸透圧や神経の活動電位を発生させる元素 ナトリウム,カリウム,カルシウム,塩素,マグネシウム,リン,酸素,水素
酵素の働きを助けたり,ホルモンの構成成分となる元素 カルシウム,ヨウ素,鉄,銅,マンガン,マグネシウム,セレン,亜鉛,コバルト,クロム,フッ素,モリブデン