体内の水 無機質の重要さ 無機質のはたらき
人間の体重の6割近くは水分であり、血液では83%にものぼる。食物では、大根の90%、豚肉の70%が水分で、人間は水を食べているようなものである。私たちの生活では、毎日2.5 l の水を摂り入れ、同じ量を汗や尿などで排出する。その間一日に腎臓を循環する水はのべで200 l にもなる。このように,生命活動を維持していくために,人間の身体にとって水は欠かせないものである。




水…体重の60%(男性)〜55%(女性)。脂肪を除外すると約70%が水。体重50 kgのヒトでは約30 l (30 kg)
細胞内液,20 l
細胞間液,7.5 l
血漿,2.5 l
バランスのくずれ→脱水症状または浮腫(むくみ)となる。
体の中での水のはたらき
・1日に摂取する水の量: 約2〜2.5 l
・水のはたらき
 (a) 生命活動の基本となる酵素反応の場を提供
 (b) 栄養素や老廃物,ホルモンなどの運搬
 (c) 体内の不要物の排泄の溶媒…糞便や尿
 (d) 体温調節…汗
水はどのように代謝されているか
摂取:
飲料  1200 ml
食物  1000 ml
代謝水 300 ml
排泄:
不感蒸泄(肺 300 ml,皮膚 500-1000 ml)
尿 1000-1500 ml
代謝水(酸化水)とは
呼吸という代謝で生じる水。水素の酸化で生じる。1日に300 ml。
  NADH, FADH2→H2O
糖質 100 g→H2O 55 ml 脂質 100 g→H2O 107 ml タンパク質 100 g→H2O 41 ml
(参考,エタノール 100 g→H2O 117 ml)
一般に,100 kcalのエネルギー生成に10〜15 mlの代謝水を生じる。
水の出納を詳しくのぞいてみると
水の摂取量 2.5 l=水の排泄量 2.5 l
摂  取 排  泄
飲料水   1200ml 尿     1500ml
食物水分 1000ml 不感蒸泄・肺   300ml
代謝水   300ml 不感蒸泄・皮膚 600ml
  糞便        100ml
合 計 2500ml 合 計 2500ml
体内の水分量の調節
体内の水分量は,口渇による水分摂取と抗利尿ホルモンanti-diuretic hormone (ADH)であるバソプレッシンを介した尿量により調節。
・水分不足→浸透圧が上昇→ADHの分泌が亢進→尿細管の水分再吸収が促進→尿は少量となり(尿量減少)濃縮されて尿浸透圧は上昇→血液の浸透圧が低下
また,口渇により脳の中枢に刺激が行き,飲水行動を引き起こす。
・水分の過剰摂取→血液の浸透圧が低下→ADHの分泌が減少→尿量が増加
・塩分の過剰摂取や不足も浸透圧を変化させる。この場合,レニン-アンギオテンシン系による血圧の調節によって浸透圧の調節がなされる。
レニン-アンギオテンシン系は血液量の保持と、血圧を上げる働きにより血液の循環を正常に保とうとする調節機構。
腎臓の糸球体に流れ込む動脈の壁には傍糸球体装置と呼ばれる部所があり、血圧を感知して、レニンと呼ばれる物質を分泌する。圧力が低下するとレニンの分泌量は増加し、上昇すれば分泌量は低下する。腎臓にはこのほかに化学受容体があり、血流中のナトリウム濃度が低下するとレニンの分泌は亢進する。
 しかし、レニンそのものには血圧を上げる作用はない。レニンは血中のアンギオテンシノーゲンに作用し、アンギオテンシンI(AI)を遊離する。AIは血管内皮細胞膜にあるアンギオテンシン変換酵素(ACE)によりアンギオテンシンU(AU)に変換される。AUは強力な血管収縮作用があり、血圧を上昇させる。また、AUは副腎にも作用してアルドステロンの生成・分泌を促進させ、血圧を上昇させる。血液循環量が増加したり、血圧が上昇するとレニンの分泌は抑制され、この系の働きが低下する。
ヒトは,絶食しても1ヶ月はいきられるのに,絶水ではなぜ1週間しかいきられないのか
不感蒸泄により,常に水(約900 ml)が失われる。また,代謝老廃物を排泄するために必要な不可避尿が400 mlあるので,1日に計1300 mlの水は必要。



無機質ってこんなに重要
無機質…人体の構成成分の4〜6%→大部分はCa, K, Na, P
これ以外に,Fe, Cu, Mg, Iや,微量成分としては,Se, Cr, Mo, Coが必要。

無機質の役割
 (a) 骨,歯などの硬組織をつくる
 (b) タンパク質,脂質,糖質と結合し,タンパク質の機能を支える
 (c) 細胞内外液の浸透圧や酸塩基平衡(緩衝作用)を保つ
 (d) 情報伝達の媒体…Ca, K, Na
細胞内外液の組成と浸透圧
細胞外液(血漿,細胞間液),細胞内液の構成成分
細胞の内液と外液では無機物質のイオン組成に大きなアンバランスがある。

無機イオンの濃度
イオン 細胞内濃度
 (mM)
細胞外濃度
 (mM)
Na+ 12 145
K+ 140 4
Mg2+ 0.8 1.5
Ca2+ <0.0002 1.8
Cl- 4 116
HPO42- 35 1
浸透圧とは
溶質(水に溶けている物質)は通さないが、溶媒(水)は通す性質をもつ半透膜を隔てて濃度の異なる溶液が接した場合,低濃度溶液の溶媒が高濃度溶液の方に拡散しようとする現象を浸透という。その圧力を浸透圧といいます。浸透圧の単位はOsmで,これは1 Mの溶液が示す浸透圧。
血漿の浸透圧は約280 mOsm/kg H2Oで、主に電解質、ブドウ糖、尿素の濃度により決定される。
生体の体液濃度や量などの恒常性は血清浸透圧により厳密にコントロールされている。
アルブミン溶液の浸透圧はみかけによらず高い
アルブミンは585個のアミノ酸からなる分子量約66,500,等電点4.7のタンパク質。
・血管を通過できないタンパク質により生じた半透膜をはさんだ濃度差が血液中に生じ,結果として,血管内に組織間液を取り込もうとする浸透圧がコロイド浸透圧(膠質浸透圧)である。
・アルブミンは血液のコロイド浸透圧を形成し、血管内に水分を保持するのに重要である。
アルブミンにはコロイド浸透圧(膠質浸透圧)の調節機能があり、正常血漿のコロイド浸透圧のうち80%がアルブミンによって維持されている。また、アルブミン1gは約20mLの水分を保持する。アルブミンの生体内貯蔵量は成人男性では約300g(4.6g/kg体重)であり、全体の約40%は血管内に、残りの60%は血管外に分布し、相互に交換しながら平衡状態を保っている。生成は主に肝(0.2g/kg/日)で行われる。この生成はエネルギー摂取量、血中アミノ酸量、ホルモンなどにより調節され、これに血管外アルプミン量、血漿コロイド浸透圧などが関与する。アルプミンの生成は血管外アルブミン量の低下で先進し、増加で抑制され、またコロイド浸透圧の上昇で生成は抑制される。その分解は筋肉、皮膚、肝、腎などで行われ、1日の分解率は生体内貯蔵量のほぼ4%である。また生体内でのアルブミンの半減期は約17日である。
コロイド浸透圧は思わぬところで働いている
毛細血管と組織間液の間での体液移動―スターリンの微循環−
※血圧(静水圧):動脈30 mmHg 毛細血管20 mmHg 静脈10 mmHg
※膠質浸透圧:血漿蛋白によるもの24〜28 mmHg、組織間液4〜8→実効20 mmHg
 血圧は血管から外へ押し出そうとする力で、コロイド浸透圧は取り込もうとする力になる。結果として、動脈では10 mmHg の圧力で血液を押しだし、静脈で10 mmHgの圧力で取り込むことになる。
これで組織に栄養を届けることができる。

もし、血管からタンパク質の流出が起こったり、コロイド浸透圧が減少したりすると浮腫が起こる。どうしても少しはタンパク質が漏れだしてしまうので、浮腫を防ぐために、タンパク質を回収するのがリンパ管である。


ナトリウムは血液量を調節する主役
ナトリウムと塩化物イオンは細胞外液の主たる無機イオン。血液量,細胞間液量の調節に関与。
多量の発汗による水分減少→腎の血流量減少→副腎の鉱質コルチコイド(アルドステロン)の分泌→腎の尿細管でのNa+の再吸収を促進→血液中のNa+濃度が上昇→浸透圧上昇
浸透圧上昇→抗利尿ホルモン(ADH)の分泌促進→血液中の水分量の増加
細胞内外のナトリウムとカリウムイオンの濃度勾配は,細胞膜にあるナトリウム・カリウムポンプ(Na+,K+-ATPase)によって,つくられている。このポンプはATPの加水分解の自由エネルギーを利用して,ナトリウムイオンとカリウムイオンを濃度勾配に逆らって輸送する。
膜電位を-70mVとすると、

    外(mM) 内(mM) Xin/Xout ΔG濃度勾配 ΔG膜電位 ΔG外⇒内
K+
Na+
5
145
140
10
28
0.069
8.24
-6.61
-6.74
-6.74
1.51 kJ/mol
-13.35 kJ/mol
3個のNa+を汲み出し、2個のK+を汲み入れるために必要な自由エネルギー変化は
 2×1.51 + 3×(-(-13.35) = 43.1 kJ/mol
ATP加水分解によって放出される自由エネルギーは、11〜13kcal/mol⇒1分子のATPが必要
カリウムは神経刺激の伝達者
神経の情報伝達は,Na+とK+による。神経細胞を刺激が伝わっていくための電流を起こす。
@通常は,K+が膜から漏出して,静止電位を形成(分極の状態)。細胞外が+になる。
A刺激がやってくると,神経細胞にNa+が流入→脱分極。細胞外が−になる。
B脱分極→大量のNa+が流入。これはすぐに止まる。
Cつぎに(約1 ms後),K+が大量に流出→過分極。細胞外が+になる。
Dイオンの流出が止まる。
鉄は血液の重要成分
鉄…血色素ヘモグロビンやミオグロビンなど,酸素結合タンパク質の成分。ヘムに結合。
酸化還元酵素シトクロームの成分。
成人には約4 gの鉄が含まれる。
ヘモグロビン 65% ミオグロビン 9% フェリチン 10% ヘモジデリン* 10%
*赤血球の破壊産物
鉄の吸収と体内移動はとても複雑
摂取した鉄(Fe3+)は腸管で還元→Fe2+→吸収→血液中で再び酸化され(Fe3+),アポトランスフェリンに結合→トランスフェリンとなり血液中を運搬
肝臓でトランスフェリンのFe3+はフェリチンに渡され,貯蔵。
骨髄でヘモグロビン合成に利用。ヘモグロビン中の鉄は2価(Fe2+)。
骨のもとカルシウムの吸収と血液中濃度の調節
体内のカルシウムの99%は骨や歯の成分で存在。
血液中には2.5 mM (5 mEq/l)存在。その半分はアルブミン(フェツイン?)に結合している。
一方,細胞内のCa2+濃度は血液中の約1/10,000。細胞内でもCa2+は小胞体とミトコンドリアに存在し,細胞質の濃度は極端に低い。⇒Ca2+はホルモン作用の2次メッセンジャーとして作用(図8-17)。
ビタミンD3は肝臓で25-ヒドロキシコレカルシフェロール(25(OH)D3)に変わり,次いで腎臓で1,25-ジヒドロキシコレカルシフェロール(1,25(OH)2D3)に変わる。この活性型ビタミンDは腸上皮細胞に作用して,腸管からカルシウムの吸収を促進する。吸収されたカルシウムは血液中に入る。血中カルシウム濃度は2つの甲状腺ホルモンホルモン パラトルモンとカルシトニンで調節される。
名称(所要量/日) 体内分布 主な作用 異 常 食 品
Ca
カルシウム
(700-800 mg)
大部分が骨,歯
筋 70 mg/100 g
神経 15 mg/100 g
血液中 10 mg/100 ml
支持組織の形成,筋収縮,
代謝制御,血液凝固
欠乏:テタニー,
  くる病,骨粗鬆症
スキムミルク、チーズ、ケール、ブロッコリー
P
リン
(1.3 g)
大部分が骨,歯
筋 200 mg/100 g
神経 350 mg/100 g
血液中 40 mg/100 ml
維持組織の形成,タンパク質のリン酸化,ATPなどのリン酸化合物 欠乏:くる病,骨軟化症 鮭、スキムミルク、鶏の胸肉、オートミール
Na
ナトリウム
(2-5 g)
血漿中 330 mg/100 g (140 mM)
全Naの1/3は骨中(細胞外液)
浸透圧の調節,血液量の調節,
神経機能,エネルギー蓄積作用
欠乏:低張性脱水
過剰:高張性脱水症,高血圧症,浮腫
チーズ、肉類、貝、エビ、かに、パン、ドレッシング
K
カリウム
( 4 g)
細胞内液 400-500 mg/100 ml
    (150 mM)
神経機能,浸透圧の調節,
エネルギー蓄積作用<
欠乏:筋麻痺
過剰:心停止
乾燥あんず・プルーン、バナナ、ほうれんそう
Cl
塩素
血漿中 350 mg/100 ml (100 mM)
細胞内 180 mg/100 ml (50 mM)
胃酸の形成,赤血球の塩素移動,
浸透圧の調節
嘔吐,下痢,発汗
…Clの喪失
 
Fe

(10-15 mg)
総量 4-5 g
 ヘモグロビン 60-70%
 トランスフェリン,フェリチン 30%
 ミオグロビン 4%
ヘムの構成成分 欠乏:貧血  
Mg
マグネシウム
(50-450 mg)
総量 20 g
 骨 70%
 血 漿  3 mg/100 ml
 赤血球 6 mg/100 ml
 筋 肉 200 mg/100 g
骨・歯の形成,キナーゼの
コファクター,神経筋調節
欠乏:成長遅延,
  痙攣
過剰:筋力低下,
  昏睡
玄米、アボガド、ほうれんそう、たら、オートミール、ヨーグルト、バナナ
Cu

(0.05-2.5 mg)
総量 ~0.1 g
 筋 肉 50%
 骨・肝臓 20%
銅タンパク質成分,シトクロムオキシダーゼなどの酵素成分 欠乏:貧血,動脈瘤,
  中枢神経系障害
過剰:青緑色唾液
  と下痢
貝類、甲殻類、ナッツ、ココア、豆、きのこ
I
ヨウ素
(150 mg)
甲状腺 甲状腺ホルモンの合成 欠乏:甲状腺機能
  障害
過剰:甲状腺腫
ロブスター、エビ、カキ、パン、牛乳
その他: Mn (マンガン),Se (セレン),Zn (亜鉛), Cr (クロム),Mo (モリブデン),Co (コバルト),Ni (ニッケル)
生体が必要とする主な無機質