mRNAを鋳型としてタンパク質がつくられる段階を翻訳(translation)という。タンパク質の生合成にはmRNA以外に、トランスファーRNA(tRNA)やリボソームが必要である。原核細胞と真核細胞の翻訳機構は大変良く似ている。生命にとって重要な機構は生物種を超えて保存されてきた結果といえる。


(ribosome)

 タンパク質合成の場。大小2つの粒子よりなる。大腸菌では3種のrRNAと53種のタンパク質、真核細胞では4種のrRNAと82種のタンパク質から成る。rRNAは触媒活性をもつ(ribozyme活性)。
原核細胞: リボソームは細胞質に遊離の状態で存在する。
真核細胞: リボソームは小胞体膜に結合し、粗面小胞体を形成する。
 ミトコンドリア、パーオキシソーム、核で必要なタンパク質は遊離の状態のリボソーム(free ribosome)でつくられる。
23S rRNA(2904 nt)
5S rRNA(120 nt)
 分子量 計110万
34種のproteins
 分子量 計49万
28S rRNA(4718 nt)
5.8S rRNA(160 nt)
5S rRNA(120 nt)
50種のproteins
 分子量 計300万
16S rRNA(1541 nt)
 分子量 56万
21種のproteins
 分子量 計37万
18S rRNA(1874 nt)
33種のproteins
 分子量 計150万
[原核細胞と真核細胞のリボソームのサブユニット構造と構成成分]
水色枠内は真核細胞の場合

リボソームの姿
 電子顕微鏡でとらえられた像から、大腸菌のリボソームは下のような奇妙な形をしていると推定されていた。

 最近,原核細胞のリボソームの立体構造がX線解析によって決定された。

[原核細胞のリボソームの立体構造]
30Sサブユニット(左)と50Sサブユニット(右)を向き合わせている側面図。
RNAを白のリボンで,タンパク質のアミノ酸残基を種々の色の球で示す。
[リボソーム50Sサブユニット]
正面(30Sと結合する面)から見た図
[リボソーム30Sサブユニット]
正面(50Sと結合する面)から見た図
構成: 23S rRNA(2904 nt),5S rRNA(120 nt) 分子量 計110万
34種のタンパク質 分子量 計49万
構成: 16S rRNA(1541 nt) 分子量 56万
21種のタンパク質 分子量 計37万



 mRNAの連続する3塩基をコドン(codon)という。コドンはそれぞれ1つのアミノ酸に対応するが、UAA, UAG, UGAの3つに対応するアミノ酸はなく、タンパク質合成の終了を指定する(終止コドン)。mRNAの翻訳の際、最初に現れるAUGはタンパク質合成の開始を指定する(開始コドン)。開始コドン以降の配列を3塩基ずつ区切っていくと、それらが1つ1つのアミノ酸に対応する。
GAAUAGGCGCCATTAGAUAUG GUU UGU UUU GCG.……CAU UAA UAUAGCGAUUUU.……
開始コドン 終止コドン
遺伝暗号表(mRNAのコドン)
  2文字目  
U C A G



U UUU Phe
UUC Phe
UUA Leu
UUG Leu
UCU Ser
UCC Ser
UCA Ser
UCG Ser
UAU Tyr
UAC Tyr
UAA オーカー
UAG アンバー
UGU Cys
UGC Cys
UGA オパール
UGG Trp
U
C
A
G



C CUU Leu
CUC Leu
CUA Leu
CUG Leu
CCU Pro
CCC Pro
CCA Pro
CCG Pro
CAU His
CAC His
CAA Gln
CAG Gln
CGU Arg
CGC Arg
CGA Arg
CGG Arg
U
C
A
G
A AUU Ile
AUC Ile
AUA Ile
AUG Met 
ACU Thr
ACC Thr
ACA Thr
ACG Thr
AAU Asn
AAC Asn
AAA Lys
AAG Lys
AGU Ser
AGC Ser
AGA Arg
AGG Arg
U
C
A
G
G GUU Val
GUC Val
GUA Val
GUG Val*
GCU Ala
GCC Ala
GCA Ala
GCG Ala
GAU Asp
GAC Asp
GAA Glu
GAG Glu
GGU Gly
GGC Gly
GGA Gly
GGG Gly
U
C
A
G
は終止コドン。 * 原核生物では開始コドンとなる

コドン偏位(codon bias)

 全てのコドンが一様に使われるわけではない。各々のコドンの使用頻度は生物によってかなり偏りがある。終止コドン(Stop)の使用頻度の偏りが特に大きい。コドンバイアスはPCRのプライマーをデザインする時に考慮する必要がある。
コドン偏位に関するもっと詳細な情報→http://www.kazusa.or.jp/codon/
ヒトと大腸菌のコドン使用頻度(%)
アミノ酸 コドン ヒト 大腸菌
Arg CGU
CGC
CGA
CGG
AGA
AGG
8.4
19.6
11.0
20.6
20.0
19.8
37.3
38.1
6.6
10.2
4.9
2.9
Ala GCU
GCC
GCA
GCG
26.2
40.1
22.2
10.9
17.3
26.6
21.9
34.3
Stop UAA
UAG
UGA
28.5
20.8
50.7
61.7
8.0
30.3



 大腸菌のタンパク質合成
原核生物の翻訳は転写と共役して起こる。
(1) アミノ酸の活性化
 アミノ酸が特異的なtRNAの2'または3' 末端にエステル結合する。
アミノアシル-tRNA合成酵素
アミノアシル-tRNA合成酵素の分類
クラスT酵素(2'-OH) クラスU酵素(3'-OH)
Glu, Gln, Arg, Val, Ile, Leu, Met, Tyr, Trp Gly, Ala, Pro, Ser, Thr, Asp, Asn, His, Lys
[Met-tRNA合成酵素の構造]
クラスT酵素
[His-tRNA合成酵素の構造]
クラスU酵素(酵素内部にHisが結合)
[Asp-tRNA合成酵素とtRNAAsp複合体]
図の左半分はAsp-AMPと結合したAsp-tRNA合成酵素。右の黒線で示すのはAsp特異的なtRNA。tRNAの3'末端がAspのすぐ側に結合しているのが分かる。
+ ATP + tRNA


アミノアシル-tRNA
合成酵素
tRNAの3' 末端
(アミノ酸は2'-OHに
結合する場合もある)
[アミノアシル-tRNAの合成(アミノ酸の活性化)]

開始コドンに対応する開始tRNA(tRNAfMet)には先ずメチオニンが結合し、そのアミノ基がホルミル化されてホルミルメチオニンになる。

[原核細胞の開始tRNAの合成]

(2) 開始複合体の形成
 不活性リボソームの30Sサブユニットに開始因子3(IF-3)と開始因子1(IF-1)が結合し、リボソームを解離する。つづいて、GTP、mRNA、IF-2、Formyl-メチオニンを結合した開始tRNA(fMet-tRNAfMet)複合体が30SサブユニットのP部位に結合する。


R17ファージAタンパク質mRNA


16S rRNA 3' 末端
[mRNAのShine-Dalgarno配列(リボソーム結合部位)と16S rRNA 3'末端の結合]
mRNAの開始コドンと開始tRNAの間で結合が生じる。
IF-3の遊離に続き,50Sサブユニットが30Sサブユニットに結合したGTPを加水分解しつつ,この複合体に結合する。IF-1とIF-2が離れる。次にFormyl-メチオニンを結合した開始tRNA(tRNAfMet)が結合する(真核生物では、開始tRNAはメチオニンを運ぶ)。これにさらに50Sサブユニットが付き、複合体が完成する。
[タンパク質生合成の開始(大腸菌), 70S 開始複合体の形成]
(3) ポリペプチド鎖の延長
成長ペプチド鎖のC末端にアミノ酸をつける3段階反応サイクルでタンパク質がつくられる。
1) mRNAのコドンに対応するアミノアシル-tRNA-延長因子Tu-GTP複合体がリボソームのA部位へ結合する。
2) A部位のアミノアシル-tRNAのアミノ基がP部位のtRNAを求核置換し、ペプチド結合を形成する(ペプチド転移)。
3) アミノ酸を放して空となったtRNAがP部位を離れる。
4) A部位のペプチジル-tRNAがmRNAごとP部位に移動し(トランスロケーション),GTPを結合した延長因子GがA部位に結合する。面白いことに,GTPを結合した延長因子Gの立体構造はアミノアシル-tRNA-延長因子Tu-GTP複合体とそっくりである(分子擬態)。
5)延長因子GがGTPを加水分解してリボソームを離れ,次のサイクルに入る。
このサイクルを繰り返すことで,1秒間に3〜5個のアミノ酸が連結されていく。
[大腸菌タンパク質生合成におけるペプチド鎖の伸長]
【ポリソーム】
翻訳が開始されてリボソームが移動すると、別のリボソームが開始位置に結合し、多数のリボソームがmRNA上で数珠つなぎになって翻訳を行う。この構造をポリソーム(polysome)と呼ぶ。

(4) 生合成の終了(鎖終結)
 mRNAの終止コドン(UAG、UAA、UGA)がA部位にくると、解放因子(RF-1,2,3)がリボソームのA部位に入り,終止コドンを認識する。RF-1はUAAとUAGを,RF-2はUAAとUGAを認識する。この時,RF-1, 2は特定のアミノ酸残基で終止コドンを認識する(ペプチドアンチコドンという)。なお,RF-3はGTP結合タンパク質で,RF-1とRF-2のリボソームへの結合を促進する。
 これにより50Sサブユニットのペプチジルトランスフェラーゼが活性化され,tRNAに結合したポリペプチド(タンパク質)を切り離す。これでタンパク質合成は終了する。なお,サプレッサーtRNAはRF因子とA部位で競合する。
ポリペプチドが解離した後,リサイクル因子 (RRF) がリボソーム複合体を解体する。

 真核生物のタンパク質合成
基本的には、大腸菌の場合と大変良く似ている。リボソームの構成の違いはリボソームの項を見よ。
開始因子は6種ある: eIF-1a, eIF-2, eIF-3, eIF-4a/4b, eIF-4f, eIF-5
開始tRNA (tRNAi)はFormyl-Metではなく、メチオニンを運ぶ。
リボソームへのmRNAの結合では,キャップ構造が認識される。
 Shine-Dalgarno配列はないが、Kozak配列(G/ACCAUGG)が開始部位近傍にあると、翻訳効率が著しく向上する。
 一般に,最初の開始コドン(AUG)から翻訳が始まるが,開始コドンの読みもらしで,2番目以降の開始コドンから始まる場合もある。
開始複合体形成に、GTP以外にATPを必要とする。
ペプチド鎖の伸長段階に、延長因子eEF-1a、eEF-1b、eEF-2が関与する。
解放因子は1種(eRF)で、GTPを必要とする。



 原核生物に作用するもの
抗生物質 作   用
ストレプトマイシン

ネオマイシン
カナマイシン
クロラムフェニコール
テトラサイクリン
エリスロマイシン
ピュロマイシン
フシジン酸
カスガマイシン
リンコマイシン
チオストレプトン
キロマイシン
 
開始fMet-tRNAのP部位への結合を阻害。リボソームによる
誤った翻訳を惹起。
同上
同上
ペプチジルトランスフェラーゼを阻害。
アミノアシル-tRNAの結合を阻害。未成熟な鎖終結。
遊離50Sリボソームに結合し、開始複合体形成を阻害。
アミノアシル-tRNA類似体として作用。
EF-Gの遊離を阻害し、ミノアシル-tRNAの結合を阻害。
開始fMet-tRNAのP部位への結合を阻害。
ペプチジルトランスフェラーゼを阻害。
EF-Gを阻害してリボソームの転位を阻害。
EF-Tuに結合し、(EF-Tu-GTP-AAtRNA)複合体の
リボソーム結合を促進。
 真核生物に作用するもの
阻害剤 作用
アブリン、リシン
ジフテリア毒素
クロラムフェニコール
ピュロマイシン
フシジン酸
アニソマイシン
シクロヘキシイミド
バクタマイシン
ショードマイシン
スパルソマイシン
インターフェロン
アミノアシル-tRNAの結合を阻害。
NADとeIF-2の反応を触媒し不活性化因子を生成。
ミトコンドリアのペプチジルトランスフェラーゼを阻害。
アミノアシル-tRNAの結合を阻害。未成熟な鎖終結。
eEF-2を阻害してリボソームの転位を阻害。
ペプチジルトランスフェラーゼを阻害。
ペプチド転移やリボソームの転位を阻害。
開始Met-tRNAのP部位への結合を阻害。
eIF-2-Met-tRNA-GTP複合体形成を阻害。
リボソームの転位を阻害。
eIF-2のリン酸化により開始を阻害。
開始因子3
開始因子1

mRNA
原核生物に作用するものを赤で,
真核生物に作用するもの青で
両方に作用するものを緑で示す。
ストレプトマイシン
ネオマイシン
バクタマイシン
ショードマイシン
カスガマイシン
カナマイシン


インターフェロン

30S 開始複合体
50S サブユニット

エリスロマイシン

70S 開始複合体
アミノアシル-
tRNAの結合

テトラサイクリン
ピュロマイシン
アブリン
リシン(risin)
ペプチド
転移
クロラムフェニコール
リンコマイシン
シクロヘキシミド
アニソマイシン
リボソームの
転移

フシジン酸

チオストレプトン
ジフテリア毒素
シクロヘキシミド
スパルソマイシン



 アンチコドンの5'末端(mRNAのコドンの3文字目に対応)はしばしば標準的ではない塩基対をつくる(コドンの3文字目の位置に構造のゆとりがあるため*)。このゆとりをゆらぎ(wobble)という。A-I塩基対のようなプリン同士の組み合わせも可能となる。
* DNAでは構造のゆとりはなく、A・T, G・C以外の組み合わせは無理。
アンチコドン
の1文字目
(5'末端) 
対応する
コドンの
3文字目
コドンの
3文字目
(3'末端)
対応する
アンチコドン
の1文字目
C G C G, I
A U A U, I
G C, U G C, U
U A, G U A, G, I
C, A, U


[非標準的な塩基対の形成(ゆらぎ)]




 一般に,最初の開始コドン(AUG)から翻訳が始まるが,複数の開始コドンが用意されているタンパク質の場合には,2番目以降の開始コドンから始まることもある。どの開始コドンから翻訳を始めるかによって,長さの異なる複数のタンパク質(isoforms)がつくられる。これを開始コドンの読みもらし(leaky scanning)という。
 次のCCAAT/enhancer binding proteinは,長さの違いにより,機能が異なるタンパク質がつくられる例である(Calkhovenら,Genes & Dev., 14, 1920-1932 (2000))。
CAGUUGGGGC ACUGGGUGGG CGGCGGCGAC AGCGGCGCCA CGCGCAGGCU GGAGGCCGCC 第1開始コドン(CUG)
GAGGCUCGCC AUGCCGGGAG AACUCUAACU CCCCCAUGGA GUCGGCCGAC UUCUACGAGG 第2,第3開始コドン
UGGAGCCGCG GCCCCCGAUG AGCAGUCACC UCCAGAGCCC CCCGCACGCG CCCAGCAACG 第4開始コドン
CCCGCCUUUG GCUUUCCCCG GGGCGCGGGC CCCGCGCCGC CCCCAGCCCC ACCUGCCGCC
CCGGAGCCGC UGGGCGGAUC UGCGAGCACG AGACGUCUAU AGACAUCAGC GCCUACAUCG
ACCCGGCCGC CUUCAACGAC GAGUUCCUGG CCGACCUCUU CCAGCACAGC CGACAGCAGG
AGAAGGCCAA GGCGGCGGCG GGCCCCGCGG GUGGCGGCGG UGACUUUGAC UACCCGGGAG
CCCCGGCGGG CCCCGGCGGC GCGGUCAUGU CCGCGGGGGC GCACGGGCCC CCUCCCGGCU 第5開始コドン
ACGGCUGUGC GGCGGCCGGC UACCUGGACG GCAGGCUGGA GCCCCUGUAC GAGCGCGUCG
GGGCGCCCGC GCUACGGCCG CUGGUGAUCA AACAAGAGCC CCGCGAGGAG GACGAGGCGA
AGCAGCUGGC GCUGGCCGGC CUCUUCCCCU ACCAGCCACC GCCGCCACCG CCACCGCCGC
ACCCGCACGC GUCUCCCGCG CACCUGGCCG CCCCCCACUU GCAGUUCCAG AUCGCGCACU
GCGGCCAGAC CACCAUGCAC CUACAGCCUG GCCACCCCAC ACCGCCGCCC ACGCCCGUGC
CCAGCCCGCA CGCUGCGCCC GCCUUGGGUG CUGCGGGCCU GCCUGGCCCC GGGAGCGCGC
UCAAGGGCUU GGCCGGUGCG CACCCCGACC UCCGCACGGG AGGCGGCGGC GGUGGCAGCG
GUGCCGGUGC GGGCAAAGCC AAGAAGUCGG UGGACAAGAA CAGCAACGAG UACCGGGUAC
GGCGGGAACG CAACAACAUC GCGGUGCGCA AGAGCCGAGA UAAAGCCAAA CAACGCAACG
UGGAGACGCA ACAGAAGGUG CUGGAGUUGA CCAGUGACAA UGACCGCCUG CGCAAGCGGG
UGGAACAGCU GAGCCGUGAA CUGGACACGC UGCGGGGCAU CUUCCGCCAG CUGCCUGAGA
GCUCCUUGGU CAAGGCCAUG GCAACUGCGC GUGAGGCGCG CGGCUGCGGG ACCGCCUUGG
GCCGGCCCCC UGGCUGGAGA CCCAGAGGAU GGUUUCGGGU CGCUGGAUCU CUAGGCUGCC
CGGGCCGCGC AAGCCAGGAC UAGgagauuc cgguguggcc ugaaagccug gccugcuccg 終止コドン(UAG)

 第1開始コドン(CUG)は通常のAUGではなく,例外的な開始コドンである。第2開始コドンは他の開始コドンとは読み枠がずれており,13塩基うしろに終止コドン(UAA)がある。それ以外の開始コドンは最後の行のUAGが共通の終止コドンである。
 第1,3,4開始コドンから翻訳される長鎖アイソフォーム(46 kDa)は転写活性化因子の働きを示すのに対し,第5開始コドンから翻訳されるN端欠損アイソフォームは逆に,転写抑制因子として働く。第2開始コドンからの短いORF(AUGCCGGGAGAACUCUAA)が欠損すると,第5開始コドンからの読み取りが激減する。



 翻訳における例外的な事例として,読み取り枠の移動,リボソームの跳躍,終止コドンの読み飛ばし(リードスルー),終止コドンUGAの読替え(セレノシステイン[NH2-CH(CH2-SeH)-COOH]として翻訳)などある。これらをmRNAによる遺伝暗号の書き換え(recoding)という。一方,RNAエディティングのように,mRNAの段階で大幅な変更が行われる場合もある。

リードスルー(read through)
 遺伝子に突然変異が生じ「センスコドン=>終止コドン」の変化が起きた場合、変異を強引に押さえ込む機構の1つである。アンチコドン部分に変異を持つサプレッサーtRNAが終止コドンに適当なアミノ酸を振り当てて終止コドンを読み飛ばし、とりあえずタンパク質をつくる。また、アンチコドンが4塩基になったもの(フレームシフト変異を抑制する)など,いくつかの例が知られている。


[変異tRNA(サプレッサーtRNA)によるリードスルー]

【レトロウィルスのリードスルー】
 レトロウィルスgag(殻タンパク質遺伝子)とpol(逆転写酵素遺伝子)の間には終止コドンが1つある。通常は、Gagタンパク質がつくられているが、少量のサプレッサーtRNAが終止コドンをリードスルーし、一定量のGag-Pol融合タンパク質がつくられる。この融合タンパク質の限定分解により、成熟型のPolタンパク質がつくられる。



 生合成直後のタンパク質は、一般に不活性である。翻訳されたタンパク質は種々の修飾を受けてはじめて活性なタンパク質へと変化(成熟)する。これをタンパク質のプロセシングという。
ペプチド結合の限定分解…N端Metの除去、N端シグナルペプチドの除去、限定分解による酵素前駆体(zymogen)の活性化など。
補酵素、金属イオン、ヘムなどの付加
シャペロンによる高次構造の形成
ペプチド結合のシス化(特定のPro残基)
ジスルフィド結合の形成
アミノ酸則鎖の修飾…リン酸化、メチル化、アシル化、ヒドロキシル化、糖鎖の付加、Gluのカルボキシル化、Lys残基間の架橋、ポリADPリボシル化、ユビキチン化など。
特定のアミノ酸のD型化(まれな事象)
タンパク質の自己スプライシング(まれな事象)


[タンパク質スプライシング]
切り離される部分をインテイン(intein)、連結される部分をエクステイン(extein)という。 RNAのintron, exonを真似た名前である。

タンパク質のソーティング
 1) 小胞体膜を通過するタンパク質は、N端にシグナルペプチドを持つ。
 2) 小胞体内腔に留まるタンパク質は、C端にLys-Asp-Glu-Leu配列を持つ。
 3) 核に移行するタンパク質にはN端に核移行シグナル配列(LysやArgが5残基)がある。
 4) ミトコンドリアや葉緑体に行くタンパク質もN端に20残基ほどの特徴的な配列がある。
 5) ペルオキシソームに行くタンパク質はC端にSer-Lys-Leuをもつ。


(molecular mimicry)

 アミノアシル-tRNA-延長因子Tu (EF-Tu) -GTP複合体はタンパク質合成(翻訳)において,アミノ酸をリボソームへと運ぶ役割をもつ。一方,延長因子G (EF-G) はペプチジル-tRNAのトランスロケーションに関与する。 延長因子Gと延長因子TuはともにGTP結合型でリボソームと結合し,自身のGTP加水分解酵素活性でGTPをGDPにすると,リボソームから離れていく。
 面白いことに,延長因子Gの立体構造はアミノアシル-tRNA-EF-Tu -GTP複合体と大変よく似ている。つまり,延長因子Gはアミノアシル-tRNA-EF-Tu-GTP複合体の「そっくりさん」で,その一部がtRNAの形を真似ていることになる。このような現象を分子擬態 (molecular mimicry)と呼ぶ。分子擬態は翻訳の解放因子(RF)や免疫系のHLAタンパク質でも見られる。
tRNA部分
[分子擬態の例]
(左)延長因子G,(右)アミノアシル-tRNA-EF-Tu -GTP複合体。
タンパク質部分を青で,tRNA部分を緑で示す。
tRNAと結合していなくてもEF-GがリボソームのA部位に結合できるのは,
このような立体構造をとるためであろう。