遺伝情報の流れ(セントラルドグマ)によれば、DNAからRNAを経てタンパク質がつくられる。

転写 翻訳
DNA RNA タンパク質
RNA
polymerase
リボソーム
tRNA
[DNAからタンパク質への流れ]

DNAからRNAを合成する段階を転写(transcription)という。RNAはDNAの−鎖アンチセンス鎖)を鋳型として作られる。このとき,鋳型鎖のGはC,CはG,TはA,AはU(RNAではTの代りにU)と読み取られる。

5' -----GCA-AAT-TCC-GGT----- 3'
3' -----CGT-TTA-AGG-CCA----- 5'
 非鋳型鎖,情報(コード)鎖,センス鎖,+鎖
 鋳型鎖,非コード鎖,アンチセンス鎖,−鎖
転写RNAポリメラーゼ
5'-----GCA-AAU-UCC-GGU----- 3'  RNA [+鎖]
DNAの鋳型鎖(−鎖,アンチセンス鎖)がRNA合成の鋳型となる

 原核生物では転写と翻訳(タンパク質合成)は同時に進行する。解糖系の酵素群のように,生物の生存に必要な最小限のタンパク質の遺伝子(ハウスキーピング遺伝子)は常にスイッチONの状態にあるが,タンパク質合成は多くのエネルギーを消費するので,生物にとって無駄な遺伝子の転写や翻訳は避けなければならない。従って,多くの遺伝子のうち、どれを、いつ、どこで、どの程度発現させるかは、生物にとって最も重要な事のひとつである。外界からのさまざまな刺激や真核生物生物が元来もっている発生、分化、増殖、加齢などのプログラムによって、個々の遺伝子の転写は精妙に調節される。
 転写を触媒する酵素はRNAポリメラーゼで、これには多くのタンパク質が関与する。原核生物の場合,プロモーターと呼ばれる特有のDNAの塩基配列がs因子で認識されて転写が開始される。真核細胞では転写制御因子が遺伝子の上流のエンハンサー配列に結合し,同時に,プロモーターを読み取ることによって転写が開始される。




 DNAの鋳型鎖[−鎖]の塩基配列を読み取って相補的なRNAを合成する反応(転写)を触媒する中心となる酵素をDNA依存性RNAポリメラーゼ(以下,単にRNAポリメラーゼと呼ぶ)という。ヌクレオチド鎖の合成方法はDNAポリメラーゼの場合と似ているが,RNAポリメラーゼがプライマーを必要としないことは際立った違いである。なお,RNAポリメラーゼには,ある種のウィルスに見られるRNA依存性RNAポリメラーゼや,鋳型を必要としない真核生物のポリ(A)ポリメラーゼなどもある。

大腸菌のRNAポリメラーゼ
ヌクレオチドや
RNAと結合
(触媒中心)
プロモーターを
読み取る。
bb’を結合

DNAと結合
(Zn2+含有)
[大腸菌のRNAポリメラーゼ (ホロ酵素)]
青と水色:a,青緑:b,赤:b'サブユニット
[大腸菌RNAポリメラーゼによるRNA鎖の伸長]
合成速度は40ヌクレオチド/秒
RNAポリメラーゼのホロ酵素は1種のコア酵素(a2bb'の4量体)にs因子が結合したものである。
・コア酵素だけでもRNA合成活性はあるが,プロモーターからの転写開始ができない。
s因子s70s32s24s54s28s38の6種が有り,RNA合成が開始されるとコア酵素から離れる。
・コア酵素にどのs因子が結合するかによって転写される遺伝子の種類が決まる。
真核生物のRNAポリメラーゼ
真核生物には3種類のRNAポリメラーゼ(I,II,III)が存在し、そのうちRNAポリメラーゼIIがmRNAの転写を行う。RNAポリメラーゼIIは少なくとも10種類のサブユニットをもち、さまざまな調節因子と結合して巨大な複合体(ホロ酵素)を形成する。しかし、これらだけでは転写を開始できない。これらの酵素は、それぞれ異なるプロモーターを認識する因子群と結合して基本転写因子(酵素複合体)を形成する。
RNAポリメラーゼI: 核小体に存在。rRNA前駆体を合成。
RNAポリメラーゼII: 核質に存在。hnRNA(mRNA前駆体)、snRNAを合成。

 [転写中の酵母(S. cereviciae)RNAポリメラーゼII]
酵母の酵素は12種のサブユニットから成る巨大な複合体である。220 kDaと140 kDaサブユニットに挟まれたDNA(灰色)-RNA(橙色)複合体が中央に見える。酵母RNAポリメラーゼIIのC端にはTyr-Ser-Pro-Thr-Ser-Pro-Serが26回繰り返した配列がある。哺乳類ではこれが52回繰り返している。この反復配列はカルボキシル末端ドメイン(carboxyl terminal domain, CTD)と呼ばれ,転写活性に重要である。転写が開始されるとCTDのポリリン酸化が起きる。

RNAポリメラーゼIII: 核質に存在。tRNAと5S rRNAを合成。



原核生物(大腸菌)の場合
 原核生物の場合,特有の塩基配列が信号として働き、転写が開始される。転写開始点の上流約10塩基と35塩基の位置に特有の配列(-10配列および-35配列)があり,これらの配列がRNAポリメラーゼσサブユニット(σ因子)のそれぞれ特定の領域によって認識される。なお,原核生物の翻訳は転写の開始直後から起こる。
s70因子の構造

 また、転写を開始するためにはプロモーター配列を正しく認識することに加えて、転写開始点付近のDNA2本鎖を1本鎖にほどく必要があるが、σのDNA鎖開裂領域にある芳香族アミノ酸が、DNA塩基とのスタッキングによってDNAの1本鎖状態を安定化する。転写開始に関わる-10配列および-35配列をプロモーター(promoter)という。発現レベルの高い一部のプロモーターでは、-35配列よりさらに上流10〜30塩基の位置にATに富んだ配列が存在し、これによって転写活性が数十倍に増強されることが知られている。この第三の構成要素はUPエレメントと呼ばれる。UPエレメントはRNAポリメラーゼのαサブユニットのC末端ドメインによって認識される。
 一方,転写の終了を調節する配列をターミネーター(terminater)という。これらの信号はシスに作用する(同じDNA鎖上で働く)のでシスエレメントという。

プロモーター
[大腸菌とバクテリオファージのs70プロモーターの例]
6種のs因子は別々のプロモーターを認識する。通常はs70が使われるが,条件によっては別のs因子も用いられる。例えば熱ショック時はs32。これにより,それぞれの環境において,異なるプロモーターをもつ遺伝子の発現を可能にしている。
s70 -10領域:TATAAT (Pribnow配列[TATA box])
    -35領域:TTGACA (-35信号
s32 -10領域:CCCCATNT  (Nは任意)
    -35領域:CCCTTGAA
s54 -12領域:TTGCA
   -24領域:CTGGNA
s28 -10領域:GCCGATAA
   -35領域:CTAAA
 転写は,(1) DNA鎖の巻き戻し,(2) プロモーターへのs因子/RNAポリメラーゼ複合体の結合,(3) s因子の遊離,(4) ポリメラーゼによる転写の開始と進行,(5) DNA鎖の巻き直し,の順に進む。
ターミネーター
1. 回文(パリンドローム)配列
 G:Cに富む回文は強固なヘアピン構造をとり,この後ろにUが連続する。
 このUと鋳型DNAのAは弱い水素結合で結びついているので,RNAは
 鋳型から離れやすい。
[大腸菌の回文型ターミネーター]
回文構造はループを形成する。
2. 転写終結因子(r因子)の結合による転写終了もある。

 r(ロー)因子はヘリカーゼ活性をもち,DNA-RNA間の水素結合を切る。
オペレーター
 ポリシストロン転写単位の遺伝子(オペロンという)の場合、転写はリプレッサータンパク質やオペレーター部位での制御を受ける。
大腸菌のラクトース(lac)オペロンの転写制御
プロモーターから構造遺伝子領域までがオペロンである。
グルコースが利用できる場合,lac オペロンのオペレーター部位にlac リプレッサータンパク質が結合し転写を抑制している。
もし,グルコースが枯渇し,代わりに乳糖が利用できる場合は,乳糖がリプレッサーに結合して不活性型に変換するため,リプレッサーはオペレーター部位を離れ,プロモーター部位が認識できるようになるため,転写が開始される。
[lac リプレッサータンパク質の構造] [lac リプレッサーとオペレーターの結合]
 4量体タンパク質で,4つのサブユニットは図の上方のへリックスで
結びついている。
 DNAのオペレーター部位と結合するのはサブユニット
の端である。リプレッサーが結合すると,DNAは湾曲
し,TATA boxが読み取れなくなる。
大腸菌のトリプトファン(trp)オペロンの転写制御
細胞内のトリプトファン濃度が高い場合は,TrpはTrp リプレッサーに結合して活性型に
しているため,リプレッサーが転写を抑制している。このような作用をもつ分子をコリプレッ
サーという。
[Trpと結合したTrp リプレッサー]
 もし,トリプトファン濃度が低くなるとTrpがリプレッサーから遊離するため,リプレッサーは
本来の不活性型に戻る(lac リプレッサータンパク質と逆である)。その結果,リプレッサーは
オペレーター部位を外れ,トリプトファン合成酵素遺伝子群の転写が開始され,必要な量の
トリプトファンが合成できるようになる。
真核生物の場合
 3種のRNAポリメラーゼでプロモーターとターミネーターは異なる。基本転写因子でプロモーターが認識されてはじめてRNAポリメラーゼが作用できる。真核生物の転写は転写因子によって調節される。原核生物ではRNAポリメラーゼ単独で基本的な転写を行うことができるが、真核生物ではこれに加えて基本転写因子と呼ばれる一群のタンパク質が必要である。RNAポリメラーゼI, II, III のそれぞれの系にはたらく基本転写因子があり、RNAポリメラーゼIIの系では,TFIIA, TFIIB, TFIID, TFIIE, TFIIF, TFIIHが知られている(詳細は転写因子を参照)。
RNAポリメラーゼI RNAポリメラーゼII RNAポリメラーゼIII
[真核細胞のRNAポリメラーゼ(基本転写因子)]
灰色横線はDNAを、黒い部分はシスエレメントを表す。矢印は転写開始位置(+1残基)。
SL1, II D, III BはいずれもTBP (TATA Binding Protein)をサブユニットにもつ複合体である。

[(TATAボックス結合タンパク質]
TATA配列をもつDNA分子(主鎖を濃緑で,側鎖を白と黄色で示す)に上から結合したTATAボックス結合タンパク質。
 RNAポリメラーゼIの場合
 コア要素(→SL1が認識)と上流域制御要素 UCE(→UBFが認識)の2つのプロモーター領域がある。
 RNAポリメラーゼIIの場合
プロモーター(-25〜-100bp)
 (1) Hogness配列(TATA box)*: TATA(A/T)A(A/T)
 →TF IID中のTATA binding protein (TBP)が認識
 (2) CAAT box: (GG)CCAATC
 (3) GC box: GGGCGG
*TATA boxの代りに転写開始点にイニシエーター(initiator)をもつ遺伝子もある。
 イニシエーター配列: YYAN(A/T)YY   (Y=C or T)
ターミネーター
  ポリ(A)付加信号(AATAAA)の約20塩基ほど3'側(下流)で転写終了。
原核生物の場合と異なり、TATA配列はRNAポリメラーゼ自身ではなく、TFIIDと呼ばれる基本転写因子のひとつで認識される。TFIIDは10種類以上のタンパク質から成るTAFとTBP(TATAボックス結合タンパク質)の巨大な複合体である。TFIIHはヘリカーゼ活性をもつ。RNAポリメラーゼIIが開始複合体から伸長複合体に移行するためには最大サブユニットのC末端がリン酸化される必要がある。

 RNAポリメラーゼIIIの場合
 IIIのプロモーターは転写領域内部に存在。tRNA遺伝子では2つある。
 IIIのプロモーターは転写領域内部に存在。tRNA遺伝子では2つある。



エンハンサー配列やサイレンサー配列
 遺伝子の数〜数10kbp上流や下流に位置し、隣接遺伝子の転写効率を変化させるDNAの特定の配列を応答エレメント(reactive element, RE)という。転写効率を著しく高めるREをエンハンサー配列という。
真核生物遺伝子の応答エレメント(RE)と対応するDNA結合因子の例
応答配列(略語) コンセンサス配列 結合因子
グルココルチコイドRE(GRE)
エストロゲン応答配列(ERE)
血清応答配列(SRE)
熱ショックエレメント(HSE)
cAMP応答配列(CRE)
TPA応答配列(TRE)
p53応答配列
E2F応答配列
赤血球GATA応答配列
AGAACANNNTGTTCT
AGGTCANNNTGACCT
CCATATTAGG
CNNGAANNTCCNNG
TGACGTCA
TGACTCA
PuPuPuC(A/TNA/T)GPyPyPy
TTTCGCGC
GATA
グルココルチコイド受容体(下図)
エストロゲン受容体
Serum Response Factor
Heat Shock Factor
CREB(ATF)
AP-1(Jun/Fos)
p53(癌抑制遺伝子産物)
E2F
GATA-I
転写因子(transcription factor)
 遺伝子の発現や転写の促進、抑制に関わるタンパク質を転写制御因子あるいは単に転写因子という。転写因子は、DNA結合部位(DBD)と転写活性化部位(TAD)をもち、特有の配列(応答エレメント)を認識し、トランスに作用する。
[転写因子の作用様式]
DNA結合部位はZnフィンガー構造helix-turn-helix (HTH)構造ロイシンジッパー構造などの特有の立体構造から成る。現在,数10種の転写因子が同定されている。一般に,転写因子は二量体で機能を発揮する。
[ジンク(Zn)フィンガー構造]
(左)転写因子ZIF268。中央に黄色と白で示したDNA鎖の主溝にはまり込むようにして,転写因子の3つのジンクフィンガーが結合している。茶色の球はZnイオンである。
(右)His2-Cys2型Znフィンガー。2つのS原子と2つのN原子がZnイオンに正四面体状に配位している。Cys4型Znフィンガーもある。
[ロイシンジッパー構造] [helix-turn-helix (HTH)構造]
巨大なへリックスがDNAを挟むようにして,主溝に結合する。ロイシン残基を赤で示す。 HTH構造のそれぞれ1つのへリックスがDNAの主溝に結合する。
DNAのメチル化
 脊椎動物遺伝子では,CG配列のシトシンの5位がメチル化(mCG配列となる)されると不活性化される。メチル化部位には転写因子が結合できなくなるためである。ヘテロクロマチン領域は高度にメチル化されている。



イントロン (intron)
 真核細胞のゲノムDNAにはタンパク質に翻訳されない塩基配列が存在する。このような配列がそのまま写しとられて生じるRNA(hnRNAという)にはタンパク質の一次構造に対応しない配列が存在することになる。このような非コード領域を介在配列(イントロン)と呼ぶ。hnRNAのイントロン部分は後で切り捨てられる。一方,転写されてはmRNAとして残る部分をエクソン(exon)という。
 真核細胞の多くのタンパク質遺伝子のエクソンはイントロンによって分断されている(イントロンの実例)。原核細胞では普通,イントロンはない。
エクソンとイントロンの例
エクソン イント
ロン
エクソン イントロン エクソン
非転写領域 非転写領域
[ヒトb-グロビン遺伝子(genome DNA)の構成]
転写領域は3つのエクソン(赤)と2つのイントロンで構成される。
[ヒトb-グロビン遺伝子の全ヌクレオチド配列]
 3つのエクソン部分を赤で、イントロン部分を黄色で示す。イントロンはGTで始まり、AGで終わる。非転写領域には,CAATボックスやTATAボックスがある。ポリA付加信号が転写領域の終わりの部分に見られる。蛋白質のアミノ酸配列に対応する核酸配列部分をオープンリーディングフレーム(open reading frame, ORF)という。図では,開始コドンから終止コドンの間がORFである。
イントロンは常にGUで始まり,AGで終わる(GU-AG則)。
 プロセシング(processing)
 RNAポリメラーゼIIにより核で転写されたmRNAの前駆体(hnRNA)は、次の3つの過程を経てmRNAになる。核内におけるこの3つの過程をプロセシングという。
(1) 5'末端にキャップ構造がつく
(2) 3'末端にポリ(A)鎖がつく
(3) イントロン部分が切り離される(スプライシング

キャップ構造の付加(キャッピング反応)
 転写の開始とともに行われる。ホスホヒドラターゼグアニルトランスフェラーゼ、2種のメチルトランスフェラーゼがこの反応に関与する。真核細胞において、キャップ構造は翻訳の開始信号となる。
[mRNAのキャップ構造]
m7GpppがRNAの3'末端に結合。RNAの最初の2残基はメチル化。
3'末端のポリ(A)鎖
 ポリ(A)付加信号(AAUAAA)で指令され、ポリ(A)ポリメラーゼと複数の因子により合成される。ポリ(A)鎖はmRNAの安定性や翻訳効率を高める。ポリ(A)鎖の長さは遺伝子により異なり、50〜250塩基である。
スプライシング
 snRNAをもつ6つのタンパク質 (U1-U6)がイントロン部分を正確に切り離し,エクソンを連結する。この反応は加水分解ではなくエステル交換反応を利用するので,エネルギーを必要としない。
[snRNAsによるRNAのスプライシング機構]
《hnRNA以外のRNAのスプライシング》
 tRNAやrRNAの場合は、GU-AG則は当てはまらず、スプライシングの仕方は上とは異なる。
原核細胞と真核細胞の遺伝子の様子をまとめると,次のようになる。
 選択的スプライシング(alternative splicing)
 多くの遺伝子の発現は、スプライス部位の選択で制御される。エキソン部分が前後のイントロンと一緒になってイントロンとして働くと、そのエキソンを欠くタンパク質となる。この機構により、1つの転写単位から複数のタンパク質をつくることができる。免疫グロブリンや骨格タンパク質の例が特に有名。

[選択的(Alternative)スプライシングの模式図]
タンパク質aとbそれぞれ、エクソン2と4を欠いている。タンパク質aではイントロン1-エクソン2-イントロン2が1つのイントロンとして認識されるため。



 ヘテロ核RNA(HnRNA、真核生物のみ)
・RNAポリメラーゼIIの直接の転写産物で、mRNAの前駆体として核に存在する。
・5'末端にキャップ構造、3'末端にポリ(A)鎖がつく。大半は核で分解されるが,一部がスプライシング過程を経てmRNAになる。
 伝令RNA(mRNA)
・核においてHnRNAのプロセシングで生じる(真核生物)。原核細胞では直接DNAから転写されてつくられる。
・リボソームに結合し、タンパク質合成の鋳型となる。
・原核細胞の場合,複数のタンパク質が1つのmRNAからつくられることが多い(ポリシストロン)。
 リボソームRNA(rRNA)
・真核細胞では核小体においてRNAポリメラーゼIで転写され、プロセシングを経てつくられる。ラットの場合、18S, 28S, 5.8S, 5Sの4種。大腸菌では16S, 23S, 5Sの3種。
・rRNAは分子内塩基対形成によって固有の二次構造をとり、リボソームによる翻訳過程の多くの部分で主要な触媒活性(リボザイム, ribozyme)を担う。
[出芽酵母rRNA前駆体のプロセシング]
 ・テトラヒメナのrRNA前駆体は自己触媒的にプロセシングを行う(T.R.Cech, 1981年=> ribozyme、核酸酵素)。

[(A)グループI型イントロンの除去(テトラヒメナrRNAの自己スプライシング)]
 グアノシンとMg2+(or Mn2+)が必須。(B)グループII型イントロンの除去。ポリアミンを補助因子として要求。

 転移RNA(tRNA)
・真核細胞ではRNAポリメラーゼIIIで転写され、プロセシングを経た後、塩基に種々の修飾を受け、65〜110塩基の低分子RNAになる。
・分子は平面構造で書くとクローバー葉をなすが,立体的にはL字型の3次構造をとる。G:Uのような非Watson-Crick塩基対も含む。

[酵母フェニルアラニンtRNA(tRNAPhe)の1次および2次構造(右)と3次構造(左)]
クローバー葉形に並べた塩基配列。緑色の丸は全てのtRNAで保存されている残基。破線は立体相互作用塩基対。m2G, D, Cm, Gm, Y, y, m5G, m7G, m5Cは特殊塩基。
・3'端は常に-CCAで、場合によってはCCAが後で付加される。
・3'末端のAに所定のアミノ酸をエステル結合で結合してリボソームまで運ぶ。mRNAのコドンに相補的なアンチコドン(anticodon)部位をもち、ここでmRNAと結合する。
・ヒトでは20種のアミノ酸に対応する多くのtRNAが存在。
プロセシング
[酵母Tyr-tRNAのプロセシング]
  ミトコンドリアRNA(真核生物)
・ミトコンドリア独自のrRNA、tRNA、mRNA。ミトコンドリアのコドンは一部、核のコドンと異なる(5を参照)。
  snRNA(small nuclear RNA、真核生物)
・イントロンの切り離しに鋳型として利用される小型のRNA。
  トランスファーメッセンジャーRNA(tmRNA、原核生物)
・大腸菌内でRNaseによりmRNAが分解され転写が途中で停止した場合、tmRNAはリボソーム-mRNA複合体に結合し、tRNAの代わりとなって運んできたAlaを付加する。さらに、自己のタグ配列をmRNAの代わりに使ってタンパク質合成を完了する(C端は常に、AANDENYALAAとなる)。
・C端にこの配列を持つタンパク質は大腸菌内で分解される。

[大腸菌ssrA RNA]
枠内に対応するmRNAが無くてもAlaを付ける。下線部はタグ配列。二重下線は終止コドン。

  その他のRNA: 低分子RNA(scRNA、snoRNA)など。
《自己切断を起こすRNA(ribozyme)》
1) ウイロイド(viroid)
 殻をもたない裸の一本鎖、環状、低分子RNA。ジャガイモやせいも病など植物の病原体。
2) ウィルソイド(virusoid)
 一本鎖、環状RNA。直線状RNAウィルスと一緒に粒子中に存在。単独では感染性なし。
 これらはともにローリングサークル型で複製される。また、自己触媒的にプロセシングを起こす。構造上、次の2つがある。
 1. ハンマーヘッド型リボザイム
 2. ヘアピン型リボザイム
3) その他
 T4ファージRNA前駆体、d型肝炎ウィルスRNA、アカパンカビのミトコンドリアのプラスミド転写物なども自己切断や自己連結を起こす。

(エディティング) =>セントラルドグマへの挑戦

 タンパク質の1次構造は全てDNAが決定すると信じられてきた。つまり、DNAの情報を写しとり、不要な部分を切りすて、忠実にタンパク質の情報に置き換えるのがRNAの役割である。しかしながら、この遺伝情報の流れ(セントラルドグマ)に挑戦するかのような現象が、トリパノソーマ(原鞭毛虫類、睡眠病の原虫)のキネトプラスチドDNAの転写過程に見出された。そこではウリジンの挿入や欠失が見出され、つくられるタンパク質の1次構造が変えられていた
 トリパノソーマ・キネトプラスチド(ミトコンドリアに相当)のシトクロムcオキシダーゼ遺伝子(CO III)mRNA(731塩基)において、145ヶ所で計407個のウリジンが挿入され、9ヶ所で計19個のウリジンが欠失していた。このようにmRNAの塩基配列を変えることにより、翻訳されるタンパク質に変化をもたらす現象をRNAエディティング(RNA editing)と呼ぶ。RNA編集はプロセシングの1種である。


[トリパノソーマのシトクロムcオキシダーゼ遺伝子(CO III)のDNAとmRNAの比較]
配列の一部を示してある。枠のTはmRNAで削除されたチミジンを、小文字のuは挿入されたウリジンを表す。
 その後、RNA編集は植物のミトコンドリアや葉緑体のmRNA、粘菌のミトコンドリアmRNA、ウィルスmRNA、哺乳動物のmRNAなどで次々と見つかった。編集のタイプとしては、塩基の挿入や欠失型、塩基の置換型がある。編集はエディトソーム(editosome)と呼ばれるリボ核タンパク質が行う。このとき、ガイドRNA(guide RNA, gRNA)が編集を受けるRNAの一部と塩基対を形成し、編集を助ける。
[RNA編集のタイプ]

1) 塩基の挿入や欠失
[トリパノソーマmRNAの編集機構]

2) 塩基の置換
これまでに[A->I], [C->U], [U->C], [U->A],の4つの変換が報告されているが、最近、[G->A]の変換が報告された(Br. J. Cancer, 94, 586(2006))。
(例) apolipoprotein B (apoB) (CAA Gln->UAA stop)
neurofibromatosis type I (NF1) (CGA Arg->UGA stop)
グルタミン酸受容体B subunit (CAG Gln->UIG Argなど8ヶ所)
A->Iへの変換はアデノシンデアミナーゼという酵素による。
[アポリポタンパク質mRNAの小腸における編集]
 肝臓では550 kDaのフルサイズのアポリポタンパク質がつくられる。一方,小腸ではそのmRNA(APOBEC-1)の段階で,シトシンデアミナーゼ作用でCがUへ変換して終止コドンが生じる。その結果,上の図のように242 kDaのタンパク質がつくられる。
 RNA編集の意義
(1) correctional editing (編集を受けてはじめて機能する分子になる)
植物ミトコンドリアのある遺伝子には開始コドンがない。ACG->AUGの編集により開始コドンが創生され、翻訳可能な配列になる。
(2) transmutational editing (別の機能の獲得)
編集前のRNAも機能をもつが、編集により機能が変化する。
「センスコドン<=>終止コドン」の変化で翻訳産物の大きさが変化
塩基挿入によりフレームシフトが起き、翻訳産物の大きさや分子後半の配列が変化
特定のアミノ酸のみが置換され、翻訳産物の機能が変化
  グルタミン酸受容体のGln->Arg(Q/R エディティング)など
塩基配列の変化により、RNAの安定性などが変化
トリパノソーマでは、その生活環に合わせてミトコンドリアの機能が大きく変化する。発生の分化の段階によってmRNAの編集を行えば、構造的、機能的に異なる蛋白質をつくることが可能となる。
RNAプロセシングのまとめ
種類 標的RNA 触媒 結果
キャップ付加
ポリ(A)付加
スプライシング

トリミング
塩基修飾
編集
HnRNA
HnRNA
HnRNA, pre-rRNA,
pre-tRNA
全RNA
pre-tRNA
mRNA
キャップ形成酵素
ポリ(A)ポリメラーゼ
スプライセオソーム
 またはpre-RNA自身
ヌクレアーゼ
特定の酵素
エディトソーム
5'にキャップが付加される
3'にポリ(A)鎖が付加される
イントロンが除去される

ヌクレオチド残基が3'末端から除去される
特定の塩基が特殊塩基に変わる
ヌクレオチド残基が付加、削除、変更される


 原核生物に作用するもの
阻害剤 作用
アクチノマイシンD

リファマイシンと
 リファンピシン
ストレプトリジギン
二本鎖DNAの隣り合うG:C塩基対間にはまり込む。
RNAポリメラーゼを阻害。
RNAポリメラーゼのbサブユニットに結合し、転写の開始を阻害する
(RNA鎖の延長は阻害しない。)
RNA鎖の延長を阻害する(転写の開始は阻害せず)。
 真核生物に作用するもの
阻害剤 作用
アクチノマイシンD

a-アマニチン
 
二本鎖DNAの隣り合うG:C塩基対間にはまり込む。
RNAポリメラーゼを阻害。
RNAポリメラーゼIIを強く阻害。RNAポリメラーゼIは阻害せず。
RNAポリメラーゼIIIは高濃度で阻害。
 
毒物−抗生物質a-アマニチン−を参照。