生物毒とは 生化学の基礎へ

動物の毒   植物の毒   微生物の毒

毒とは:
 一般に,外来性物質で生体に毒性を示すものを毒と呼ぶ。医薬も一種の毒である。飲む毒を毒物(poison),生物起源の毒を毒素(toxin)と総称し、特に毒腺で作られる毒を毒液(venom)と呼んでいる。
 われわれの身の回りには,毒(生物毒、天然毒)をもつ生物がいる。毒をもつ生物は,ある種のバクテリア,菌類,原生動物,植物,爬虫類,両生類,魚,ウニとヒトデ,軟体動物,および昆虫など多岐にわたる。植物では、トリカブト、ケシ、南米のコカの葉、インド大麻などが毒(植物毒)をもつことが知られている。生物毒の働きとしては,赤血球を破壊する溶血毒,細胞や組織の壊死を引き起こす壊死毒,主に動物の神経系に作用する神経毒などがあるが,捕食のための武器として使われる毒は神経毒が中心となる.
 細菌やカビの毒はきわめて毒性が高いため生物兵器として開発されているものもある。このように,生物毒の用途としては@医薬品,A犯罪,B兵器などがあげられる。研究分野でも多くの毒が大変有用な道具として使われている。


動物の毒(zootoxins)

へビ、ハチ、サソリは自身で毒を生産し、餌生物の捕食や防御に用いる。魚類や貝類は細菌や渦鞭毛藻類の生産した毒をとりこみ、体内に蓄積する。フグのように泳ぎの遅い魚は毒を自己防御に用いている。イソギンチャク、カツオノエボシなど海洋生物からは今も、多くの新しい毒が発見されている。

海洋生物の毒

テトロドトキシン(tetrodotoxin)
フグ毒の成分。ある種のカエルやタコにも存在。フグの場合,食物連鎖の結果、卵巣や肝臓に蓄積。神経の活動電位発生時にNa+透過性が増大するのを阻害し、興奮伝達を阻害する。また、筋細胞の膜のNa+チャネルも阻害する。その結果、神経と筋肉の両方に麻痺をおこし、呼吸ができなくなり、死亡する。解毒剤はない。
テトロドトキシンの構造 サキシトキシンの構造
サキシトキシン(saxitoxin)
赤潮を形成するプランクトン類が生産。これを取り込んで貝が毒化。ムラサキイガイ、マガキ、ホタテ貝などにこの毒が見いだされる。サキシトキシンの薬理作用はテトロドトキシンをほぼ同じで、口や手足の感覚が麻痺し、呼吸筋麻痺で死亡する。有効な治療法はない。
シガトキシン(cigatoxin)
熱帯の海周辺に生息する魚を食べてかかる食中毒をシガテラ(ciguatera)という。原因物質は渦鞭毛藻が生産するシガトキシン。藻食魚から肉食魚へと食物連鎖によって毒が移行し、最終的に魚の肝臓に蓄積。
シガトキシンは神経-筋接合部において、神経側のNa+チャネルを持続的に開口させ、Na+が流入。その結果、アセチルコリンの放出を促進させ、筋肉を収縮させる。シガトキシンには多くの類似分子種がある。
ciguatoxin Iの構造
コノトキシン(conotoxin)
イモガイは南西諸島の浅瀬に棲息する円錐形の殻を持った大形の貝。この貝は毒の入った銛のような歯舌で小さな魚を刺し、麻痺させて捕らえる。 イモガイの毒の主成分はコノトキシンで,ペプチドである。コノトキシンには多数の分子種がある。神経筋接合部でアセチルコリン受容体,ナトリウムチャネル,神経終末のカルシウムチャネルなどを阻害し,筋肉は即座に麻痺して筋肉を収縮できなくなる。

イモガイ α-コノトキシンGI
その他の毒
クラゲの毒はタンパク質で,神経毒と溶血毒がある。イソギンチャクの毒にはナトリウムチャネルやカリウムチャネルを阻害する多くのペプチドが含まれる。

陸上動物の毒

サソリ毒
サソリによる被害は,メキシコ,イスラエル,インドなどで報告されている。サソリ毒には,神経のNa+チャネルが閉じるのを遅らせて筋肉の収縮を引き起こすα-toxinや、Na+チャネルに作用して流入を増大→興奮を高めるように作用→筋肉の痙攣→呼吸が出来なくなるテイテイウストキシンなど,6群に分類される数百種に及ぶペプチド性の毒が知られている。
クモ毒
セアカゴケグモ(オーストラリア)、クロゴケグモ(北米、中米)のα-ラトロトキシンが有名。α-ラトロトキシンは神経筋接合部の神経側に作用して、カルシウムイオンを流入→アセチルコリンの急激な放出→シナプス小胞の枯渇を招く。(筋肉の痙攣、血圧の上昇、虚脱状態へ)
ハチ毒
ミツバチ、オオスズメバチ、アシナガバチなどの毒がある。ミツバチ毒は、アミン類(ヒスタミン、ノルアドレナリン)、酵素(ホスホリパーゼA2)、ポリペプチド(メリチン、アパミン、MCD-ペプチド)の混合物である。
 ハチ毒の強さはマムシの毒力とほぼ同じだが、ハチに刺されて死亡する人は、ヘビよりかなり多い。これは、ホスホリパーゼA2が抗原となり、I型アレルギー反応により急性炎症、浮腫、分泌物による気道の閉塞などにより、呼吸ができなくなるためである。

ヘビ毒

毒ヘビによって世界では年間250万人が被害を受け,約10万人が死亡している*。日本本土ではマムシ、沖縄や奄美諸島ではハブが生息するが,ハブにより年間約300人が受傷する。抗ハブ毒血清での治療により、死亡者は大変少なくなってきたが、大きな後遺症を残すのがいまだに問題となっている。
 ヘビ毒は、@出血毒 、➁A神経毒 、B 筋肉毒などに分類されるが、何れも本体はタンパク質である。コブラやウミヘビ毒は神経毒が主体で、クサリヘビやマムシ毒は出血毒と筋肉毒を多く含む。しかし、クサリヘビ科のヘビには神経毒が、また、コブラ・ウミヘビ科のヘビには出血毒が全く含まれないわけではない。
* Koh DCI, Armugam A, Jeyaseelan K. Snake venom components and their applications in biomedicine. Cell. Mol. Life Sci. 2006; 63: 3030-41.

いろいろな毒のLD50
毒の種類 LD50 (mg/kg) 由来
ヘビ毒 0.02〜5 毒蛇
ボツリヌス菌毒素D 0.00000032 ボツリヌス菌
ボツリヌス菌毒素A 0.0000011 ボツリヌス菌
破傷風菌毒素,ベロ毒素 0.000002 破傷風菌,赤痢菌
ダイオキシン 0.0006 農薬合成の副産物(人工)
サキシトキシン 0.0034 プランクトン,シガテラ毒
テトロドトキシン 0.01 ふぐ毒
ω-コノトキシン 0.013 イモガイ
サリン 0.2 毒ガス(人工)
α-アマニチン 0.3 テングタケの毒
ストリキニーネ 0.5 植物の毒
青酸ガス (HCN) 3  
塩化第二水銀 5  
青酸カリ (KCN) 10  
四塩化炭素 (CCl4) 4620  
LD50: 半致死量(マウス)
LD50は毒の投与方法(皮下、静注、腹腔など)で異なる。
ヘビの出血毒
わが国に生息するマムシやハブの毒には、次のような、血液に作用する成分が含まれる。
 
マムシおよびハブ毒中のタンパク質成分
マムシ ハブ 作用
出血因子(毒の本体) brevilysins H3,H4,H6 HR1A, HR1B
HR2a, HR2b
血管壁損傷(出血)、
(フィブリノーゲン分解)
金属プロテアーゼ
 (非出血性)
brevilysins H1,H2,L4,L6 H2-proteinase,
flavorase, Hv1
筋肉分解,血管損傷、
フィブリノーゲン分解,
補体活性化
セリンプロテアーゼ トロンビン様酵素
血管透過性増大因子
flavoxobin他 フィブリノーゲン分解、
血管透過性増大、補体活性化
ディスインテグリン brevicaudins flavoridin,triflavin 血小板凝集の阻止
ホスホリパーゼA2(PLA2) acidic PLA2 Asp49-PLA2他 細胞膜損傷,血小板凝集の阻止
PLA2関連タンパク質 BP I, BP II 筋壊死,浮腫(後遺症の原因)
ヒアルロニダーゼ + + 組織の破壊
L-アミノ酸酸化酵素 + + H2O2発生(膜損傷)
ブラジキニン増強ペプチド + + ブラジキニン生成(激痛)
神経毒様タンパク質 ablomin triflin Ca2+チャンネルを遮断
1. トロンビン様酵素:
血液のプロトロンビンを活性化させ、血管内に微小な凝固を引き起こす。→フィブリノーゲンや凝固因子が消費され、逆に血液が止まらなくなる。微小な血栓のため,急性腎皮質壊死を引き起こす。
2.➁出血因子:
血管内皮に作用し、出血を引き起こす。出血因子の本体は活性中心にZn2+をもつ金属プロテアーゼ(metalloproteinase)である。出血因子は、血管の基底膜を破壊する(collagen IVを分解)。
蛇毒金属プロテアーゼの立体構造 金属プロテアーゼの活性部位
3.血管透過性増大因子:
セリンプロテアーゼの1種。
4.ディスインテグリン(disintegrin):
アミノ酸数50〜60程度のポリペプチド。RGDやKGD配列をもつ。血小板凝集を強く抑え、血液凝固を妨害。
ヘビの神経毒
神経毒はアミノ酸数60〜74くらいのポリペプチドである。その作用機序から,次の4つになどに分類される。
1. α-neurotoxins:
ポリペプチドである。α-ブンガロトキシン、エラブトキシン、コブロトキシンなど、多くの毒蛇から類似のものが報告されている。
IVCHTTATSP ISAVTCPPGE NLCYRKMWCD AFCSSKGKVV ELGCAATCPS
KKPYEEVTCC STDKCNPHPK QRPG
Bungarus multicinctus毒由来のα-bungalotoxinのアミノ酸配列
神経筋接合部のシナプス後膜(筋肉側)のニコチン性アセチルコリン受容体と結合。神経終末から放出される神経伝達物質アセチルコリンの結合を妨げる。その結果、筋肉は弛緩する。
2. β-neurotoxins:
ノテキシン、クロトキシン、β-ブンガロトキシンなど構造的には、リン脂質分解酵素であるホスホリパーゼA2そのものである。従って、ホスホリパーゼA2活性とともに、神経筋接合部の神経側の膜に作用して、アセチルコリンの放出を妨げる作用がある。その結果、筋肉は収縮することができない。
3. デンドロトキシン:
デンドロトキシン、トキシンIなどBPTI/Kunitz type inhibitorファミリーに類似の立体構造をもつ小型のタンパク質。
神経のカリウムイオンチャネルを阻害して、カリウムイオンの神経からの放出を妨げる。そのために、興奮が元に戻らず、アセチルコリンの放出が続き、筋肉は収縮した状態が続く。
4. ファシキュリン類:
シナプス後膜のアセチルコリンエステラーゼの働きを阻害。その結果、受容体に結合したアセチルコリンの分解が妨げられ、興奮が持続した状態になる。筋肉は収縮した状態が続く。
最近,種々のイオンチャンネルを阻害する神経毒様のタンパク質として,CRISP (cysteine-rich secretory protein)と呼ばれるタンパク質群に属するものが見つかっている。コブラ毒のnatrin,ハブ毒のtriflin,マムシ毒のablominなどがCRISPである。

植物の毒(phytotoxin)

アルカロイド

窒素原子を含む塩基性有機化合物をアルカロイド(alkaloid)と総称する。動物に対して特有の生理作用を示す。そのほとんどが,毒性や苦味を呈する。生理作用としては,鎮痛・鎮静,麻酔,興奮,麻痺,幻覚などの神経作用があり,医薬品として重要なものが多い。

ニコチン(タバコ) カフェイン(茶やコーヒー) コニイン(ドクニンジン)
アコニチン アトロピン
モルヒネ(ケシ) コカイン(コカの葉) レセルピン(インド蛇木)

コニインは昔,罪人の死刑に用いられた。アコニチン(aconitine)およびメサコニチン(mesaconitine)はトリカブトから取れる猛毒として有名。
アトロピンはチョウセンアサガオ,ハシリドコロの毒として有名である。アトロピンは鎮痛,麻酔薬として利用される。
モルヒネやコカインも鎮痛,麻酔薬として利用されるが,その習慣性から麻薬として社会問題となっている。
レセルピンは鎮痛剤として,また,血圧降下作用から高血圧の治療薬として利用。

キニーネ(キナの皮) エフェドリン(麻黄) ツボクラリン(南米産クラーレ) ストリキニーネ(マチン種子)

キニーネは解熱剤およびマラリアの特効薬,エフェドリンは喘息の薬。
ツボクラリンは豆科の大樹コンドデンドロントーメントスの樹皮からとれる矢毒。ニコチン性アセチルコリン受容体を阻害し、筋への信号伝達を遮断。筋肉にのみ作用し,筋弛緩を引き起こす→外科手術に利用。

植物由来の数種のステロイド配糖体から得られるステロイドはNa+-K+ポンプの強力な阻害剤である。心臓に強い効果を示すため強心ステロイド(cardiotonic steroid)あるいは強心配糖体(cardiac glycoside)とよばれる。
ジギトキシン
キツネノテブクロ(ジギタリス)由来。ジギトキシンの糖を切断したものをジギトキシゲニンという。ジギトキシンは心筋の収縮力を高めるので,うっ血性心不全の治療に適した薬物となる。 ジギタリスによるNa+-K+ポンプ機能の阻害によって,細胞内Na+濃度は上昇する.Na+の濃度勾配が減少するためNa+−Ca2+交換体によるCa2+の排出が遅くなる.その結果,細胞内Ca2+濃度が上昇し,心筋の収縮性は高まる。
ジギトキシン(ジギタリス)青,ジギトキシゲニン キツネノテブクロ
(Digitalis purpurea)
ウワバイン(ouabain)
キョウチクトウ科ストロファンツスは種子に多量のアルカロイドを含み、矢毒として用いられた。この植物に含まれる強心配糖体をウワバインという。ジギトキシンと同様の作用。強心利尿薬の原料。
ウワバイン ストロファンツス サイカシン(ソテツ)
ほかに,フクジュソウ,スズランなどにも強心配糖体が存在する。ソテツの有毒成分はアゾオキシ配糖体でサイカシンといい,神経障害を示す。
ソラニン
ジャガイモの芽や緑色の皮などの毒成分で、三糖類をもつ配糖体である。神経伝達に働く酵素(アセチルコリンエステラーゼ)を阻害。
ソラニン

キノコ毒

日本のキノコのうち,50種が有毒。毒性が強いのは,タマゴテングダケ、シロタマゴテングダケ、タマゴタケモドキ、フクロツルタケ、ドクツルタケなど。

アマニチン(amanitin)
タマゴテングタケ(Amanita phalloides)から発見された致命的な毒素。8つのアミノ酸が結合した環状ペプチド。肝臓のRNAポリメラーゼと結合し細胞の膜構造を破壊する。
a-アマニチン
ファロイジン(phalloidin)
タマゴテングタケなどの毒成分。環状ペプチド。重合アクチンと特異的に結合し,解離を阻害→肝障害。F-アクチンと高い特異性をもつので細胞内アクチンの標識が可能。近年,アクチンを標的とする分子が海綿,ウミウシ,ホヤ,アメフラシ,藍藻などの海洋生物からもたくさん見つかり,注目されている。
蛍光標識ファロイジンによる
細胞内アクチンの染色
モノメチルヒドラジン CH3-NH-NH2 
シャグマアミガサタケの成分ギロミトリンが加水分解して生成。肝臓・腎臓・腸・膀胱に障害を起こす。発がん性をもつ。
コプリン
ヒトヨタケ、ササクレヒトヨタケ、ホテイシメジ、スギタケ、ウラベニイロガワリなどの毒。きのこを食べる前後にアルコールを摂取した場合にのみ発症する。
ムスカリン
アセタケ類とカヤタケ類のキノコに含まれるアルカロイド。ムスカリンは最初に研究された副交感神経作用物質で、末梢の副交感神経系に重篤な刺激作用を生じさせ、痙攣や死にいたることもある。
ムスカリンは脳血液関門を通れないため、中枢神経系に直接影響を及ぼすことはない。ムスカリンは神経伝達物質アセチルコリンの作用を模倣してアセチルコリン受容体に結合し、「ムスカリン性アセチルコリン受容体」として知られる受容体となる。
ムスカリン
シロシビン(psilocybin), シロシン(psilocyn)
「マジックマッシュルーム」の名で幻覚剤として出回ったこともある(現在は,麻薬原料植物に指定)。セロトニンとシロシビンは構造が似ているため、シロシビンが脳内のセロトニン受容体に作用し幻覚を引き起こす。
シロシビン シロシン セロトニン
(神経伝達物質の1つ)
その他のキノコ毒
種々の毒キノコにイボテン酸,ムスカリジン,イル−ジンS (ランプテロ−ル),ファシキュロ−ルEとF,ヘベビノサイド(Hebevinoside) I〜XI,ギムノピリンA, B(gymnopilin A, B),クリチジン,アクロメリン酸A,アクロメリン酸Bなどの毒も存在。
イボテン酸 イル−ジンS (ランプテロ−ル) アクロメリン酸A クリチジン
ギムノピリンA,

その他の植物毒

リシン(ricin)
ヒマ種子の猛毒成分はリシンというタンパク質。リシンはAサブユニット(n=267)とB(n=262)サブユニットから成る。28S rRNAを切断し、タンパク質合成を停止させる。この作用は腸管出血性大腸菌O157のベロ毒素と同じ。解毒剤はない。戦時中、リシンは化学兵器として使用された事もある。
テトラヒドロカンアビノール
大麻に含まれる。多幸感や幻覚を生じる。
テトラヒドロカンアビノール ウルシオール(ウルシノキ,ハゼノキ)
ウルシオール
ウルシやハゼまけの原因物質。
ロテノン(rotenone)
南洋・熱帯地方のマメ科植物のデリス根部に含まれる毒の主成分がロテノン。魚毒性を利用して毒流し漁法で魚を捕っていたという(現在は使用禁止)。日本では戦前殺虫剤として使われていた。呼吸鎖複合体Iの阻害剤。
ピレトリン
除虫菊に含まれる殺虫成分。
サフロール(safrol)
クスノキ科の植物Sassafras albidum Neesの根に含まれるサッサフラス油の主成分。肝腫瘍を発生。
ロテノン(デリス) ピレトリン(除虫菊) サフロール(サッサフラス油)
アブリン
トウアズキの種子の毒。分子量63,000の糖結合性タンパク質(レクチン)。
ドクウツギ,ドクゼリ,アセビなど有毒成分を含む植物は多い。

(bacteriotoxin)

最近の毒には、菌体外毒素(exotoxin)と菌体内毒素(endotoxin)がある。また、カビによって生成される毒、カビ毒をマイコトキシン(mycotoxin)と呼ぶ。

病原菌や食中毒菌の毒素は,ほとんどがタンパク質。毒性は極めて高い。ボツリヌス毒素と破傷風毒素は知られている最強の毒である。

ボツリヌス毒素
毒素Aは分子量150,000のタンパク質で,10万の重鎖と5万の軽鎖からなる。他に毒素B, C1, C2, D, E, F, Gがある。神経筋接合部位のアセチルコリンの遊離を阻害。LD50は3.2×10−7 (mg/kg)
破傷風毒素(Clostridium tetani)
神経毒(テタノスパスミン)で分子量150,000のタンパク質。脳脊髄の運動抑制ニューロンに作用。
ジフテリア毒素
分子量64,500の単純タンパク質。蛋白質合成の伸長因子EF-2の阻害。EF-2をADPリボシル化し阻害する。このタンパク質は細胞に結合すると特定のプロテアーゼで切断され,2つの断片AとBに分かれる。断片AがADPリボシル化酵素である。
コレラ毒素(コレラトキシン)
コレラトキシン(A1B5)は6つのサブユニットから成る(分子量84,000)。サブユニットA1がNAD+を使って促進性受容体と共役するGタンパク質のαサブユニットのArg残基をADPリボシル化し、活性型を持続させる。
ブドウ球菌エンテロトキシン
黄色ブドウ球菌がつくる毒素。エンテロトキシン(腸管毒)と呼ばれるものは、AからE型に分けられる。黄色ブドウ球菌食中毒の80〜90%はA型毒素、あるいはその複合体に起因。
ウェルシュ菌α毒素
分子量43,000。溶血毒。
ブドウ球菌α毒素
分子量36,000。溶血毒。
志賀赤痢菌毒素
分子量82,000。溶血毒。腸管毒(神経性)。
腸炎ビブリオ毒素
分子量118,000。心臓毒。
百日咳毒素(IAP)
IAPは5種6個のサブユニットよりなる多量体タンパク質(S1, (S2)2, S3, S4, S5; 分子量約117,000)。最大のS1サブユニットは、抑制性受容体と共役するGタンパク質のαサブユニットのC末端近傍のシステイン残基をADPリボシル化し、阻害する。
タンパク質以外の毒としては,内毒素(エンドトキシン)がある。これは,ある腫のグラム陰性菌の細胞壁外膜構成成分のリポ多糖。

(mycotoxin)

カビ毒でとくに真菌(糸状菌)に由来する毒物質をマイコトキシンという。

リセルグ酸(麦角菌) アフラトキシンB1(A. flavus) オクラトキシンA(A. ochraceus)
リセルグ酸(麦角アルカロイド)
麦類に寄生する麦角菌の毒。
アフラトキシンB1
コウジカビAsperfillus flavusが生成する毒。最強の発がん物質→肝臓ガン。
シクロクロロチン
黄変米は、人体に有害なカビが繁殖して黄色や橙色に変色した米のこと。主としてペニシリウム属(Penicilum)のカビが原因。カビが作り出す生成物が肝機能障害や腎臓障害を引き起こす毒素となる。ペニシリウム・イスランジウム菌が産生する毒素シクロクロロチンは含塩素環状ペプチドで,肝機能障害や肝ガンを誘発。
オクラトキシン
フェニルアラニンとイソクマリン環がアミド結合。肝臓と腎臓の腫瘍発生。tRNAとの競合→アミノアシル合成酵素の阻害。
その他、ステリフマトシスチン,ルテオスカイリン,ルブラトキシンB,グリセオフルビン,スポリデスミン,シトリニン,クロロペプチド,シクロピアゾン酸などがある。