抗生物質(antibiotics): 微生物がつくり,他の微生物や細胞の発育・代謝を阻害する有機化合物。
各種感染症の治療薬や抗がん剤として多用されるだけでなく,農薬・飼料添加剤・食品保存用防腐剤などにも利用される。現在,抗生物質として数千種知られているが,ヒトに毒性の低い約50種が利用されている。
抗生物質の構造による分類
名 称 |
実 例 |
β-ラクタム系 |
ペニシリン,セファロスポリン,メチシリン,アンピシリン,カルバペネム系,モノバクタム系 |
(グルコ)ペプチド系 |
グラミシジンS,アクチノマイシン,ポリミキシンB,バンコマイシン |
アミノグリコシド系 |
ストレプトマイシン,カナマイシン,ネオマイシン,ゲンタマイシン,フラジオマイシン,トブラマイシン,アミカシン,アルベカシン,アストロマイシン,イセパマイシン,ベカナマイシン,ジベカシン,ミクロノマイシン,ネチルマイシン,パロモマイシン |
テトラサイクリン系 |
テトラサイクリン,ミノサイクリン,オーレオマイシン |
マクロライド系 |
エリスロマイシン,ロイコマイシン,ナイスタチン |
キノロン系 |
ニューキノロン,レボフロキサシン,シプロフロキサシン,トスフロキサシン,ガチフロキサシン |
核酸系 |
ピューロマイシン,ホスミドシン,セフェム系,メイアクト |
クロラムフェニコール系 |
クロラムフェニコール |
抗生物質の作用としては、DNA複製阻害,RNA合成阻害,タンパク質合成阻害,細菌細胞壁合成阻害作用などがある。抗生物質は、細菌が増殖するのに必要な代謝経路に作用することで細菌にのみ選択的に毒性を示し、人体への毒性ははるかに小さい。
抗生物質は細菌感染を克服し、平均寿命を大幅に伸ばす原動力になったが、まだ治療法の開発されていない新規感染症、抗生物質の効力が低下することなど問題も多い。また、抗生物質を濫用すると、細菌が抗生物質を分解したり無毒化してしまい、抗生物質の効かない耐性菌(MRSAなど)が出現している。さらに、医療現場を中心に、多くの抗生物質に耐性を示す多剤耐性菌の存在(院内感染)が問題となっている。
抗生物質の作用機序による分類
作 用 点 |
実 例 |
ヌクレオチド中間代謝阻害 |
アザセリン,ヂュアゾマイシン,アングストマイシンA,C |
DNA合成阻害 |
マイトマイシンC,ザルコマイシン,ブレオマイシン |
RNA合成阻害 |
アクチノマイシンD,クロモマイシン |
タンパク質合成阻害 |
テトラサイクリン,クロラムフェニコール,エリスロマイシン,ロイコマイシン,ストレプトマイシン,カナマイシン,ネオマイシン |
細胞膜変質 |
ナイスタチン,トリコマイシン,バリノマイシン,ポリミキシンB,コリスチン |
細胞壁合成阻害 |
ペニシリン,セファロスポリン,シクロセリン,バンコマイシン,リストセチン |
- ペニシリン(Penicillin)
- A. Flemingによって青カビの一種Penicillium属から単離された抗生物質。システインとバリンのジペプチドがβラクタム環と呼ばれる4員環構造を構成。
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ペニシリン |
赤,システイン残基;青,バリン残基 |
βラクタム系の抗生物質は細菌の細胞壁合成を阻害。その構造が細菌の細胞壁を架橋するD-アラニル-D-アラニンに似ているため、細菌のトランスペプチターゼがペニシリンとアラニン構造を誤認識し、細胞壁の架橋が行われなくなる。ヒトの細胞にはこういった細胞壁構造が存在しないため、Penicillinは全く作用しない。しかし,ペニシリン・ショックと呼ばれる急性アレルギー(アナフィラキシー)を引き起こすことあり。ペニシリン代謝物が生体内タンパクと結合して抗原となるため。
- セファロスポリン(Cephalosporin)
- 糸状菌Cephalosporium acremoniumから単離。βラクタム系。作用はPenicillinとほぼ同様で、細胞壁合成を阻害。
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セファロスポリンC |
アレルギー反応を起こしやすい点もPenicillinと類似。Penicillinが効かない菌にも有効なのが特徴。
- ストレプトマイシン(Streptomycin)
- Streptomyces griseusの産生する抗生物質。アミノグリコシド系に分類。
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ストレプトマイシン |
アミノグリコシド系抗生物質は一般に、細菌の30Sリボソームに結合し、タンパク質の合成を阻害。特に結核の治療に良く用いられた。
- テトラサイクリン(Tetracycline)
- Streptomyces aureofaciensの産生するChlortetracyclineを元として、同類抗生物質の開発が進められた結果、開発されたもの。骨格にテトラサイクリン系特有の4つの環を持つのが特徴。
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テトラサイクリン |
リボソームに結合し、タンパク質合成を阻害することで静菌的抗生作用を発揮。効果のある菌の種類が多い。
- エリスロマイシン(Erythromycin)
- Streptomyces erythreusの産生する抗生物質。大環状ラクトンに糖が結合した構造をし、マクロライド系に分類。
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エリスロマイシン |
主としてグラム陽性菌に有効。PenicillinやCephalosporinでは効果のないマイコプラズマにも有効。タンパク質の合成を阻害することで抗生作用を示す。
- バンコマイシン(Vancomycin)
- グリコペプチド系抗生物質。細胞壁合成前駆体であるD-アラニル-D-アラニン構造と強く結合し、細胞壁の合成を阻害。MRSAなど抗生物質が効かない菌にも効果があるが、1986年、イギリスとフランスでバンコマイシンに耐性のある腸球菌(VRE)の存在が報告された。さらに2002年、病原性の高いバンコマイシン耐性ブドウ球菌(VRSA)の存在が報告された。
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バンコマイシン |
- シプロフロキサシン(Ciprofloxacin)
- ニューキノロン系で、DNAジャイレースを阻害することでDNA合成を阻害する。炭疽菌など、さまざまな菌に効果。
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シプロフロキサシン |
クロラムフェニコール |
- クロラムフェニコール(Chloramphenicol)
- 細菌の蛋白質の合成を阻害し、増殖を抑制。
古くは汎用されたが、血液障害など副作用が多いこと、他の優れた抗生物質が開発されたこともあり、特殊なケースを除き、内服、注射剤ともほとんど使用されることはなくなった。クロマイP軟膏など外用剤は、今でもよく使用。
- グラミシジンS(Gramicidin S)
- Bacillus Brevisが産生するペプチド系抗生物質。抗炎症剤として利用。
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グラミシジンS |
Orn, オルニチン
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- ポリミキシンB(Polymixin B)
- ポリペプチド系の抗生物質。細菌の細胞膜透過性を変化させることによりこわして殺菌的に作用。とくに、緑膿菌などグラム陰性菌に強い抗菌力を発揮。
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ポリミキシンB |
Dbu, L-a,g-ジアミノ酪酸
Polymixin B1: R, 6-メチルオクタン酸
Polymixin B2: R, 6-メチルヘプタン酸 |
- ピューロマイシン(puromicin)
- 放線菌由来の抗生物質。アミノアシル-tRNAの3’末端アナログとして合成中のポリペプチド鎖のC末端に取り込まれる。
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ピューロマイシン |
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