光合成 (photosynthesis) は,高等植物や緑藻(青色細菌)が葉緑体(クロロプラスト)内で行う,二酸化炭素の固定反応である。この過程で水が酸素に酸化され,二酸化炭素は還元されて糖になる。年間に約1011t もの炭素が光合成で固定される。
CO2 + H2O → [CH2O] + O2
 光合成は大きく2つの段階に区別される。1つは明反応と呼ばれ,光のエネルギーを利用して水が酸素に酸化されるとともに,二酸化炭素の還元に必要なNADPH2+ATPをつくりだす。もう1つの段階は暗反応と呼ばれ,NADPH2+とATPを利用して二酸化炭素から種々の糖がつくられる。



 葉緑体(chloroplast)には透過性の良い外部境界膜と,透過性の低い内部境界膜がある。クロロプラストの内部はストロマと呼ばれる。ストロマには高濃度の酵素があり,その半分はリブロースビスリン酸カルボキシラーゼ (Rubisco) である。また,ミトコンドリアと同様に,二本鎖の環状DNAや原核細胞型のリボソームが存在する。DNAは約100種のタンパク質をコードしているが,それでも葉緑体で必要な約10%にしか過ぎない。
 ストロマ内には膜で包まれたチラコイドという構造物が存在する。チラコイドが10〜100個積み重なり,グラナという構造をとっている。グラナ間はストロマラメラで連結されている。
 チラコイド膜はリン脂質の含量が約10%と低く,ガラクトースを含む糖脂質(下図)が大部分を占める(80%)。また,脂肪酸は不飽和度が高いため,膜の流動性が高い。
 1881年、Engelmannによって,クロロプラストは光合成を行う場であることが実証された。光合成における光吸収反応は光化学系 (phososystem, PS) と呼ばれる色素-タンパク質複合体で行われる。

(light reaction)

 植物の光合成の最初の段階は,光のエネルギーを利用し,水を酸化して酸素にすると共に,暗反応の二酸化炭素還元に必要なNADPH2+ATPをつくりだすことである。これらの過程を明反応(light reaction)といい,全行程は
2 H2O + NADP+ → 2 NADPH2+ + O2
ADP + Pi → ATP
となる。光合成で発生する酸素(O2)はこのように水に由来する事が分かる。ATP合成については,光リン酸化を参照せよ。



 光を受容する受容体は,クロロフィル(Chl) a, bという緑色の色素である。クロロフィルはプロトポルフィリンIXの誘導体で,中心にMg2+が配位している。Mg2+が配位していないものをフェオフィチンという。
[クロロフィル a (Chl a)の構造] [フェオフィチンa (Pheo a)の構造]
 クロロフィルはプロトポルフィリン IXの誘導体で,中心にMg2+が配位している。クロロプラスト中の大部分のクロロフィルは光を集めるアンテナの役割を果たす。吸収された光子のエネルギーはアンテナクロロフィル間を励起エネルギーとして移動し,アンテナクロロフィルよりも励起エネルギーの低い反応中心クロロフィルに集められる。クロロフィルが吸収できない波長の光を集めるために,カロテノイド(橙色),フィコエリトロビリン(赤色),フィコシアノビリン(青色)など,別の色の色素も使われる。
バクテリアのクロロフィルは,フィトール基の代りにゲラニルゲラニル基を持つものもある。また,ポルフィリン環の側鎖にも違いがある。
クロロフィルaのMg2+が2H+に置換された分子をフェオフィチンaという。
 クロロプラスト中の大部分のクロロフィルは光を集めるアンテナの役割を果たす。吸収された光子のエネルギーはアンテナクロロフィル間を励起エネルギーとして移動し,アンテナクロロフィルよりも励起エネルギーの低い反応中心クロロフィルに集められる。反応中心クロロフィルは,タンパク質,電子伝達補因子,クロロフィル二量体(特別ペア, special pair)からなる複合体である。
[アンテナクロロフィルから反応中心クロロフィルへの
エネルギーの移動]
[光合成細菌のアンテナクロロフィルタンパク質]
光合成細菌 (P. aestuarii)のバクテリオクロロフィルaタンパク質
7つのクロロフィルa分子を含んでいる。
 クロロフィルが吸収できない波長の光を集めるために,b-カロテンのようなカロテノイド類(黄色〜橙色),フィコエリトリン中のフィコエリトロビリン(赤色)やフィコシアニン中のフィコシアノビリン(青色)のようなフィコビリン類など,別の色の色素も使われる。
[b-カロテン] [フィコエリトロビリン]
シアノバクテリア(C. caldarium)のフィコシアニンの構造]
タンパク質(2量体)に3分子のフィコシアノビリンが結合している
[クロロフィルa,b他の吸収スペクトル]



明反応の光化学系(PS)複合体
 光合成の機能単位は,光化学系(Photosystem, PS)と呼ばれるタンパク質とクロロフィル(Chl)や補助色素の複合体である。光化学系は2つあり,光化学系(Photosystem, PS)I,IIと呼ばれる(番号は発見順)。
これらはチラコイド膜に埋め込まれている。
 光化学系I (PS I)の反応中心クロロフィル(特別ペア)の吸収極大は700 nmで,この2つはP700と呼ばれる。一方,光化学系II (PS II)の吸収極大は680 nmで,特別ペアはP680と呼ばれる。
 複合体 成分名
光化学系(PS)
複合体II
酸素発生複合体(水デヒドロゲナーゼ, OEC),
P680, フェオフィチン(Pheo),
膜結合型プラストキノン(QA, QB),
膜結合型プラストキノンプール
シトクロム
b6-f複合体
シトクロムb6(2ヘム型), (2Fe-2S),
シトクロムf, 膜結合型プラストキノール(PQ)
プラストシアニン プラストシアニン(シトクロム c-553, 10.5kD, CuI/II型)
光化学系(PS)
複合体I
P700, A0, A1
X,A,B(膜結合4Fe-4S型タンパク質), フェレドキシン,
フェレドキシン-NADP+ レダクターゼ
光リン酸化系 ATP シンターゼ(ATPase)
 CF0:プロトン輸送チャネルタンパク質他
 CF1a3b3gde
 さらに,タンパク質と結合した色素分子で構成される集光性複合体(light harvesting complex, LHC)がある。LHCは光化学系の構成員ではなく,一部はPSIと,他はPSIIと結合している。また,両方に結合できる可動性のものもある。
[A. carteraeの集光性複合体(LHC)]
中央にクロロフィルaが2個あり,その周りにたくさんのカロテノイド(peridinin)が存在する。
カロテノイドが集めた光はクロロフィルに渡され,次いで,P680やP700へ送られる。
植物光合成の光化学系(Z機構)
 明反応は,PSIIが光のエネルギーを受け取って酸素発生複合体(OEC)を活性化させることで開始される。水の分解で生じた電子は,以後,ミトコンドリアの呼吸鎖で見られる電子伝達系と同様に,タンパク質や色素間でやり取りされる。
[明反応のZ機構]
明反応の機構はZ機構と呼ばれる。これを順を追って解説する。
  1. 光化学系II(PS II)における反応
     光化学系II(PS II)が光のエネルギーを受け取り,2分子のH2Oを酸素(O2)にまで酸化できる強い酸化剤である酸素発生複合体が生成するとともに,P680を弱い還元剤(P680*)に変える。これに付随して,チラコイド内では4つのプロトンが生じる。
     酸素発生複合体(水デヒドロゲナーゼ, OEC)は,Mnイオンを4つもつ,金属タンパク質である。この酵素は光のエネルギーを利用して2分子のH2Oを4電子酸化し,酸素(O2)を生成する。光子8〜10個当たり1分子のO2が生じる。
     2 H2O → 4 H+ + 4 e- + O2
     OECのMnイオンは順次,5つの異なる状態(S0〜S4)をとり,電子を1つずつ取り去っていく。
    [酸素発生複合体の作用機構]
    G.W.Brudvig, R.H.Crabtree, Proc, Natl. Acad. Sci. USA, 83, 4586 (1986).

    S0〜S2はMn4O4型,S3とS4はMn4O6型である。Mn4O6からMn4O4に変る時, O2を生成する。



     生じた電子は電子供与体Zを経てP680のクロロフィルaに渡される。P680は励起され,強い電子供与体(P680*)に変わる。


    [色素だけを上から見た眺めた図]
    [ほうれん草光化学系IIの反応中心の様子]
    P680タンパク質は四量体を形成。中央上部にP680クロロフィルa二量体(反応中心)が見える。
    ポルフィリン環の面を向け合ってクロロフィル二量体になる。
    腰ぎんちゃくクロロフィルを介してフェオフィリンaに電子が渡される。
  2. 光化学系IIからプラストキノンへの電子伝達
     1分子のH2Oから放出された2つの励起電子は,フェオフィチンa (Pheo),プラストキノン(PQA,PQB)へと渡される。同時に,ストロマ側から2H+をとってプラストキノール(PQBH2)を生じる。電子はさらに膜結合型のプラストキノンプール(PQpool)へと渡される。


            [光化学系のキノン]
  3. 光化学系II (PS II)への電子伝達
     プラストキノールプールの電子はシトクロムb6-f複合体,次いでプラストシアニン(PC)に渡される。この時,8個のH+がストロマからチラコイド内に汲み入れられる。ATP合成に必要なプロトン濃度勾配は,主にこの段階で形成される。
     シトクロムb6-f複合体は,2つのヘムbをもつシトクロムb6,結合型プラストキノン(PQ),[2Fe-2S]型鉄-硫黄クラスタータンパク質,変形型ヘムcをもつシトクロムfからなり,呼吸鎖の複合体IIIに似ている。
     プラストシアニンが受け取った電子は,さらに,次の光化学系I (PS I)へ渡される。

    [シトクロムf-プラストシアニン複合体]
    左下に,銅イオンを結合したプラストシアニン,右に変形型ヘムcをもつシトクロムfが見える。
    [プラストシアニンの構造]
    プラストシアニンはチラコイド膜の内表面に存在する10.5 kDaの青色銅タンパク質である。触媒部位のCu2+には,Cys,Metおよび2つのHisが配位している。
     Cu2+ + e-Cu+
    プラストシアニンのCu2+は正方形型(E0'=+0.158 V)ではなくて正四面体型(E0'=+0.370 V)であり,大変,電子を受け取り易くなっている。
  4. 光化学系I (PS I)の反応
     光化学系IIとは位置的に離れた光化学系I(PS I)が光のエネルギーを受け取り,NADP+をNADPH2+まで還元できる強い還元剤と弱い酸化剤が生じる。つまり,P700は光で励起されて電子を放出して酸化型(P700*)になる。P700*はプラストシアニンからの電子で還元される。
     一方で,P700から放出された電子はA0(クロロフィルa),A1(フィロキノン),FX,FA,Bなどの4Fe-4S型鉄-硫黄クラスターなどで次々に運ばれ,フェレドキシンに渡される。
    [細菌光化学系複合体Iの立体構造(膜面から見た図)]
    色素分子は濃灰色で示す。2つの大サブユニット,9個の小サブユニット,[Fe-S]で構成されている。
    95分子のクロロフィルa,22分子のb-カロテン,2分子のフィロキノンが含まれる。
    [光化学系複合体Iの活性中心の様子]
  5. フェレドキシン-NADP+ レダクターゼによるNADPH2+の生成
    フェレドキシンは,フェレドキシン-NADP+ レダクターゼのFADに電子を渡す。
    次いで,NADP+ レダクターゼはNADP+を還元し,NADPH2+が生成する。これを線形電子伝達という。
     一方,P700から放出された電子がシトクロムb6-f複合体に戻され,H+をチラコイド内に汲み込むのに利用される循環的電子伝達もある。この場合NADPH2+はつくられず,PS IIも関与しない。このH+濃度勾配を利用してATP合成だけが行われる(紅色細菌の光合成と類似)。
    [フェレドキシンの構造] [フェレドキシン-NADP+ レダクターゼ]
    フェレドキシンはストロマにある可溶性の酵素で,
    4Fe-4S型の鉄-硫黄クラスターをもつ。
    一度に1個の電子を受け取る。
    レダクターゼ(緑)はFAD(図左上)を補酵素にもち,
    NADP+ ,2H+ ,4e-からNADPH2+をつくる。
    フェレドキシンは青で示してある。




紅色細菌の光化学系
 ラン藻植物や高等植物と異なり,緑色細菌や紅色細菌の光化学系は1つしか存在せず,かつ,形質膜に埋め込まれている。
 紅色細菌Rb. viridisの光化学系複合体の反応中心は,特別ペアP870バクテリオクロロフィルa (BChl a) [バクテリオクロロフィルbの場合はP960という],バクテリオフェオフィチンa (BPheo a),キノン類(ユビキノン‐8,ユビキノン‐10,メナキノン*など)をもつタンパク質複合体で構成される。これ以外に四ヘムc型シトクロムをもつものもある。 *ビタミンK2のこと。
[紅色細菌Rb. viridisの光化学系複合体] [紅色細菌の光化学系の活性中心]
P870*(BChr a二量体) BPheo a
0 s (光照射直後) 3 ps
キノンB (QB) 0.1 ms 200 ps キノンA (QA)
[紅色細菌の光化学系における電子伝達の様子]
励起された分子をで示す。
 P870 (BChl a二量体)が光のエネルギーを受け取ると励起される(P870*)。励起電子は3 ps以内にバクテリオフェオフィチンa (BPheo a)に移動する。さらに約200 ps後には電子はキノンA (QA)に到達し,QAを生じる。このように電子の移動が速いために,励起エネルギーが熱になるのが防がれる。
 QAの電子はゆっくりと(100 ms)キノンB (QB)に移動する。このようにして電子が2個移動すると,QB2−は細胞質側から2個のH+を取り,QBH2になる。次いで,電子はキノンプール(Q)に渡され,さらに2個のH+が細胞質から取られてQH2となる。
 次に,電子はシトクロムbc1複合体を経てシトクロムc2に移動し,再び,光化学系複合体に戻される。
 一方,細胞質側から取られたH+は細胞外に汲み出される。このようにして生じた細胞内外のH+濃度勾配が,光リン酸化によるATP合成の駆動力となる。
[紅色細菌の明反応とATP合成]
高度高塩菌の光合成
 高度高塩菌は12%以上の塩濃度で生活する細菌で,嫌気的条件ではその細胞膜には紫色の斑点が現れる。これは”紫膜”と呼ばれ,膜のバクテリオロドプシンの色に起因する。バクテリオロドプシンは目の感光色素であるロドプシン(rhodopsin)に似た構造をし,レチナール(ビタミンAのアルデヒド型)を結合している。
 太陽光が当たると,レチナールの構造が変化し,細胞内の水素イオンがバクテリオロドプシンを通過して細胞外へ吐き出される。水素イオンは細胞膜のH+輸送ATPシンターゼを通って細胞内に入り,この時,酸化的リン酸化や光リン酸化と同様な機構でATPが合成される。この機構は,植物などの光合成機構のプロトタイプといえる。
 高度高塩菌は細胞外の高濃度の塩とバランスをとるため,光合成を利用して細胞内にグルタミン酸やグリセリンを合成する。
[高度高塩菌の光合成機構] [バクテリオロドプシンの立体構造]
りん脂質二重層を7本のへリックスで貫通した
タンパク質がバクテリオロドプシンで,中央に
レチナール分子(緑色)が見える。

(photophosphorylation)

 光化学系IIにおける水2分子の酸化で4H+,シトクロムb6-f複合体で8H+,合計12H+がストロマからチラコイド内に生成または取り込まれる。この結果,チラコイド膜を挟んでプロトン勾配が生じることとなる。
 このプロトン濃度勾配(pH勾配)を解消するために,ミトコンドリアにおける酸化的リン酸化の場合と同様,プロトンがATP合成酵素(H+輸送ATPase)を通ってストロマ側に汲み出される。3H+の移動と共役して,ADPとリン酸から1分子のATPが合成される。これを光リン酸化(photophosphorylation)という。
 ミトコンドリアの場合と異なる点としては,チラコイド膜がMg2+やCl-を通すために電荷的中性は保たれ,ATP合成の駆動力は電荷勾配ではなく,pH勾配だけに依存することである。ストロマとチラコイド内のpHの差は3.5にも達する。
 ATP合成酵素の分子的構成はCFoCF1の2つの部分から成り,それらのサブユニット構成もミトコンドリア酵素と酷似している。ATP合成機構もほぼ同じと推定される。ただし,ATPase複合体の分子の向きは,ミトコンドリアでは内向きであるのに対して,クロロプラストではストロマ側つまり外向きである。
[H+輸送ATPaseによるATP合成]
 いま,クロロプラストが8光子を吸収した場合を考える。このとき1分子のO2と2分子のNADPH2+が生じ,12 H+が移動する。12 H+から4 ATPがつくられ,2 NADPH2+は酸化的リン酸化で6 ATPをつくれるので,合計10 ATPがつくられることとなる。従って,1光子の吸収により1.25 ATPがつくられる計算になる。
  高度高塩菌(Halobacterium)も光のエネルギーを利用して光合成を行うが,その機構はより簡単なものである。

(dark reaction)


 明反応において,光のエネルギーを利用してATPとNADPH2+を合成した。これらを用いて,二酸化炭素から糖を合成する過程を暗反応(dark reaction),Calvin サイクル,または還元的ペントースリン酸回路という。暗反応では光のエネルギーを一切必要としない。
 暗反応は次の2つの段階に分けられる。以下の記述はサイクルが計3回まわった場合である。
1. 還元的合成過程:段階 x 3回
3分子のリブロース-5-リン酸と3分子のCO2から6分子のグリセルアルデヒド-3-リン酸(GAP)が合成される。この時,全部で9分子のATP(段階)と6分子のNADPH2+(段階)が消費される。段階でのCO2の取り込みは,リブロースビスリン酸カルボキシラーゼ (Rubisco) によって触媒される。また,段階糖新生あるいは解糖の逆反応と全く同じである。
2. 再生過程:段階
1分子のGAPは糖の合成に使われる(光合成生成物)。残り5分子のGAPは糖の組み替えを経て,3分子のリブロース-5-リン酸に再生される。ここでは,自由エネルギーATPや還元剤NADPH2+を全く必要としない。再生過程はヘキソースリン酸側路(HMS,ホスホグルコン酸回路)と大変良く似ている。
以上,2段階をまとめると,
  3 CO2 + 9 ATP + 6 NADPH2+→ GAP + 9 ADP + 8 Pi + 6 NADP+
となる。これはまさに,二酸化炭素を還元して糖(GAP)を創り出したことに他ならない!
グリセルアルデヒド-3-リン酸(GAP)から,糖新生やその他の経路によって,ショ糖,デンプン,セルロース,脂肪酸,アミノ酸などが合成される。



 リブロースビスリン酸カルボキシラーゼは光合成の要となる酵素で,葉緑体タンパク質の15% (ストロマの可溶性タンパク質の実に50%) を占める。自然界に最も多量に存在する酵素である。動物はこの酵素をもたない。
 植物,藻類,シアノバクテリアのRubiscoは,大サブユニット (L) 8つと,小サブユニット (S) 8つから成る十六量体タンパク質 (L8S8) である。これに対して,光合成細菌のRubiscoは大サブユニットだけから成り,紅色非硫黄細菌 Rhodospirillum rubrum は大サブユニットの二量体 (L2),Chlorobium thiosulfatophilumはL6Thiobacillus intermediusはL8である。基質であるCO2は大サブユニットに結合する。葉緑体Rubiscoの大サブユニットはクロロプラストDNAにコードされているが,小サブユニットは核DNAにコードされる。

[ほうれん草Rubiscoの立体構造]
(左)真上から見た図,(右)横から見た図
[SynechococcusのRubiscoの大小サブユニット]
a-らせん: 青,b-シート: 緑,
CAB: 水色,基質(CO2): 赤
 ほうれん草Rubiscoは大サブユニット8つと,小サブユニット8つから成る十六量体であるが,ここにはその半分の八量体が示されている。
酵素活性を抑えるために,2-カルボキシアラビニトール 1-リン酸(CAB)が結合した状態で結晶解析がされた。
 Synechococcusの酵素は大サブユニットと小サブユニットから成る十六量体タンパク質である。
 大サブユニットにはトリオースリン酸イソメラーゼに見られるa/bバレルがある。
光呼吸 (Photorespiration)
 リブロースビスリン酸カルボキシラーゼは正式にはリブロース 1.5-ビスリン酸カルボキシラーゼ-オキシゲナーゼ (略称はRubisco) と呼ばれる。この酵素はリブロース 1,6-ビスリン酸(RuBP)のカルボキシル化を触媒して2分子の3-ホスホグリセリン酸(3-PG)を生じるが,それだけでなく酸素添加反応も触媒するためである。
 酸素添加反応では,1分子の3-ホスホグリセリン酸(PG)と1分子のホスホグリコール酸が生じる。ホスホグリコール酸はペルオキシソームとミトコンドリアで酸化的に代謝されてCO2と3-ホスホグリセリン酸になる。これを光呼吸という。この過程の途中でATPとNAHPH2+が消費されるので,随分無駄なことである。この無駄な経路はRubiscoがCO2とO2を区別できないためである。酸素添加反応の効率は温度とともに上昇するので,光呼吸は高温における酸素の障害から身を守る役割があるとも示唆されている。




ペルオキシソームでは光呼吸
だけでなく,カタラーゼによる
過酸化水素の分解やグリオ
キシル酸回路
も行われる。

Rubiscoの阻害物質(CAB)
 植物で夜だけつくられる2-カルボキシアラビニトール 1-リン酸 (CAB) は,CO2と結合した酵素(カルバモイルRubisco)に強く結合し,酵素活性を阻害する。これは光がない状態で光合成を抑える働きをしている。

[CABの構造式]
C4経路による二酸化炭素の濃縮
 トウモロコシ,モロコシ,サトウキビ,多くの雑草は二酸化炭素を濃縮する代謝経路,C4サイクルをもち,ほとんど光呼吸をせずにCO2をリンゴ酸などのC4化合物に固定する。これらの植物はC4植物と呼ばれ,その葉は葉脈を中心に単層の維管束鞘細胞が並び,その外側を葉肉細胞が取り囲んだ構造をしている。
 大気中のCO2は葉肉細胞に取り込まれるが,葉肉細胞のクロロプラストにはRubiscoがないので,ホスホエノールピルビン酸とCO2から先ずオキサロ酢酸(C4)をつくり,これをリンゴ酸(あるいはアスパラギン酸)に変えて維管束鞘細胞へ送る。維管束鞘細胞はリンゴ酸を脱炭酸してピルビン酸に変え,この時生じるCO2をCalvinサイクル(暗反応)に利用する。