脂溶性ビタミン 水溶性ビタミン
 ヒトは,生命を維持するために必要な物質(栄養素)を,毎日の食事からとっている。主要な栄養素には,炭水化物(糖質),タンパク質,脂肪(脂質)の3つがあり,これらの有機物は体内で分解されて,体をつくるのに必要な物質の合成に利用されたり,エネルギーを得るのに利用される。しかしながら,体内で合成できないか,できても量が不十分なものがある。そのような必須の栄養素がビタミンミネラルである。この2つを加えて5大栄養素という。
 ビタミンは,「微量で体内の代謝に重要な働きをする物質だが,体内で生合成できない化合物」である。ビタミンは微量で生理機能を発揮し,不足すると特有の欠乏症を呈する。ビタミンは欠乏症の有効な補充療法薬として,広く利用されている。場合によっては,過剰症もある。
ビタミンの特徴
@ 微量で動物の栄養を支配。物質代謝や正常な生理機能を調節。
A 体内では合成できない。
B 欠乏すると病気になる。
植物や微生物はビタミンをつくる能力をもっている。
 1910年,鈴木梅太郎は,米糠から脚気に有効な物質を発見し,「オリザニン(Oryzanin)」と命名した。これは現在のビタミンB1に相当する。次いで,C. Funkが同じ有効成分を報告し,ビタミン(vitamine)と名づけた。この名前は,生命活動に必要なアミン(vital amine)という意味でつけられた。その後,30年間に多くのビタミンが発見され,それらはアミンではないものが多いので,現在では英語の語尾のeを除いてビタミン(vitamin)と綴る。現在,次の13種の化合物がビタミンと認定されている。
ビタミンA, B1, B2, B6, B12, C, D, E, K, 葉酸, ナイアシン, ビオチン, パントテン酸
 ビタミンは,水に溶け易い水溶性ビタミンと,水に溶け難い脂溶性ビタミンに大別される。これらは体内での用途,作用機構,酸・アルカリや熱に対する安定性,酸化され易さなどが大きく異なる。

水溶性ビタミン ビタミンB群 (B1, B2, B6, B12, 葉酸, ナイアシン, ビオチン, パントテン酸), ビタミンC
脂溶性ビタミン ビタミンA, D, E, K
ビタミンB群は体内で補酵素の合成原料として利用されるので,体内の物質代謝に欠くことができない。

一般に,脂溶性ビタミンは酸には弱いが,アルカリには安定である。水溶性ビタミンはこの逆の性質をもつ。
熱に対する安定性は,ビタミン E>D>B2>B1>A>Cの順である。
ビタミンA, C, Eは二重結合をもつので酸化され易い。


ビタミンA
化合物名  レチノール(retinol)
構造 レチノール(ビタミンA)
レチナール(ビタミンAアルデヒド)
レチノイン酸(ビタミンA酸)
二重結合は全てトランス型である。黄色の蛍光を発する。
プロビタミン
β-カロテン

2分子のレチノール
生理作用 欠乏症
レチナールは網膜の視物質ロドプシンの構成成分で,光に反応して11-シス-レチナールに変化。肝臓でエステル体として貯蔵。血液中ではレチノール結合タンパク質に結合して運搬。酸化されて生理作用を発現。 夜盲症(トリ目)、角膜乾燥、発育不全、皮膚や粘膜の上皮の角質化,感染症,中枢神経系の障害。
必要摂取量 多く含む食べ物
女性 0.54 mg (1,800 IU),男性と妊婦 0.6 mg(2,000 IU,授乳婦 2800IU。過剰症があり,上限 3 mg (10,000 IU)。 レバー,ウナギ,牛乳,チーズ,バターなどの乳製品,しそ,カボチャ,人参,ホウレン草などの緑黄色野菜(カロチノイドを含む。)
ビタミンD
化合物名  エルゴカルシフェロール(D2),コレカルシフェロール(D3
構造
エルゴカルシフェロール(D2)  コレカルシフェロール(D3)  1,25-ジヒドロキシコレカルシ 
フェロール [活性型ビタミンD]
プロビタミン
エルゴステロール             7-デヒドロコレステロール
これらは,紫外線の作用により,活性型のビタミンD2やD3に変わる。
生理作用 欠乏症
腸管からのリンやカルシウムの吸収促進,類骨組織への石灰化の促進,歯芽の石灰化助長。 くる病や骨軟化症
必要摂取量 多く含む食べ物
5歳以下の幼児 10.0 μg (400 IU),成人 2.5 μg (100 IU) 魚肉,乳製品,シイタケなどのキノコ類
ビタミンE
化合物名  α-, β-, γ-,δ-トコフェロール(tocopherol),α-, β-, γ-,δ-トコトリエノール
構造 a-トコフェロール
b-トコフェロール
g-トコフェロール
淡黄色で,酸化され易い。
生理作用 欠乏症
生体膜中でリン脂質の不飽和脂肪酸の酸化を抑制,過酸化脂質の増加を防止。腸管におけるビタミンAの酸化分解防止。溶血防止。ラットの生殖に不可欠。脂溶性の還元剤。 脂肪吸収障害やある場合には溶血性貧血や運動失調などの神経症状。
必要摂取量 多く含む食べ物
男性 10mg/日,女性8mg/日 植物油,マーガリン,アーモンド,落花生,小麦胚芽
ビタミンK
化合物名  フィロキノン(K1),メナキノン(K2),メナジオン(K3,合成品)
構造 フィロキノン(ビタミンK1)
メナキノン(ビタミンK2)
黄色で光・アルカリに不安定。
生理作用 欠乏症
フィロキノン(K1)は光合成の光受容に関与。ビタミンK2は細菌のATP産生などに関与。哺乳類では血液凝固因子の活性化(γ-カルボキシグルタミン酸の合成に関与)。 出血傾向,血液凝固不良。
必要摂取量 多く含む食べ物
乳児 5〜10 μg,成人男子 65 μg,女子 55 μg K1は緑葉野菜,植物油,マーガリン,豆類,海藻類,魚介類,K2は納豆,アオノリ,鶏卵,肉類,乳製品。


ビタミンB1
化合物名  チアミン(thiamin)
構造
生理作用 欠乏症
生体内でリン酸化され,TPP(トランスケトラーゼ,ピルビン酸脱水素酵素,α-ケトグルタル酸脱水素酵素などの補酵素)になる。 脚気(全身倦怠,心臓肥大,浮腫,最低血圧低下,四肢の知覚異常,腱反射消失,知覚鈍麻),ウエルニッケ脳症
必要摂取量 多く含む食べ物
男子1.1mg/日,女子0.8mg/日 豚肉,カモ肉,大豆,落花生,ウナギ,フナ,コイ,小麦玄穀,ソバ粉,玄米,グリンピース
ビタミンB2
化合物名  リボフラビン(riboflavin)
構造
生理作用 欠乏症
酸化還元反応,酸素添加反応に作用するフラビン酵素の補酵素FAD, FMNの成分。 発育障害,口唇炎,舌炎,脂漏性皮膚炎,口角炎,角膜炎
必要摂取量 多く含む食べ物
成人男性 1.2mg,成人女性 1.0 mg 豚牛レバー,脱脂粉乳,ドジョウ,塩サバ,納豆,焼き海苔,シジミ
ビタミンB6
化合物名  ピリドキサール(pyridoxal),ピリドキシン(pyridoxine),
 ピリドキサミン(pyridoxamine)
構造  
ピリドキサール     ピリドキシン       ピリドキサミン
生理作用 欠乏症
補酵素ピリドキサール5'-リン酸(PALP)およびピリドキサミン5'-リン酸(PMP)の成分として,タンパク質の代謝に必要。 成長の停止,体重減少,テンカン様痙攣,皮膚炎,かぶれ,にきび
必要摂取量 多く含む食べ物
成人男性 1.6 mg/日,成人女性 1.2 mg/日 ニンニク, ピスタチオ,ヒマワリ種子,マグロ,ニワトリ肉,干し海苔, 牛レバー
ビタミンB12
化合物名  シアノコバラミン(cyanocobalamine)
構造
完全型のB12コバラミンと呼ばれ,CNの代りに5,6-ジメチルベンズイミダゾールが配位。赤いビタミン。
生理作用 欠乏症
回腸から吸収され,トランスコバラミンIIと呼ばれる血中の糖タンパク質と結合して運 ばれ,受容体により細胞に入り,補酵素型に変換。水素移動,メチオニンの生成に関与する補酵素アデノシルメチルB12を構成。B12は微生物によって生合成される。 巨赤芽球性の悪性貧血,メチルマロン酸尿(血)症,ホモシステイン尿 (血)症。神経障害,睡眠遅延症候群,アルツハイマー症,動脈硬化症発症との関係が注目されている。
必要摂取量 多く含む食べ物
成人男女 2.4μg 牛肉・レバー,豚レバー,青魚,貝類,牡蛎,あま海苔
ビタミンC
化合物名  L-アスコルビン酸(L-ascorbic acid)
 壊血病の(scorbutic)に由来。
構造 アスコルビン酸
酸化(-2H)
デヒドロアスコルビン酸
生理作用 欠乏症
一部酸化型のデヒドロアスコルビン酸として存在。生体内の水溶性還元剤。抗酸化作用(スーパーオキシド(O2-),ヒドロキシラジカル(・OH),過酸化水素(H2O2),一重項酸素(1O2)などの活性酸素種の消去剤),コラーゲンの形成(プロリンとリジンの水酸化),生体異物の代謝(シトクロームP-450の活性化),アミノ酸・ホルモンの代謝(ドーパミンヒドロキシラーゼ)に関与。 壊血病,脱毛,湿疹,結膜炎,筋肉痛,感覚異常,全身倦怠
必要摂取量 多く含む食べ物
成人 100mg,乳児 母乳から摂取する40mg,幼児/青少年 45-90mg パセリ,ブロッコリー,ピーマンなどの緑黄色野菜,ミカン,イチゴなどの果物,緑茶,牛レバー,卵黄
葉酸
化合物名  葉酸(folic acid)
構造
還元型葉酸(テトラヒドロ葉酸)が補酵素として作用。
生理作用 欠乏症
小腸細胞のジヒドロ葉酸レダクターゼによってプテリン環が還元されてテトラヒドロ葉酸に変換。さらにメチル化される。種々のC1基の転移反応の補酵素として作用。 造血機能異常,神経障害,腸機能障害,貧血,下痢
必要摂取量 多く含む食べ物
成人 200μg/日(米国では400μg/日)
ナイアシン
化合物名  ニコチン酸(ナイアシン, niacin)
 ニコチンを硝酸で酸化して得たので,この名がつけられた。
構造 ニコチン酸  ニコチンアミド
生理作用 欠乏症
NAD+,NADHNADP+,NADPHとして,約500種類の酸化還元酵素(デヒドロゲナーゼなど)の補酵素として機能。 口舌炎,皮膚炎,神経症,ペラグラ(皮膚病の一種)
必要摂取量 多く含む食べ物
男性17mg,女性13mg マイタケ,タラコ,インスタントコーヒー,かつお節,パン酵母,ビンナガ,カラシメンタイコ,メジマグロ,カツオ,キハダ,レバー
ビオチン
化合物名  ビオチン(biotin)
 ビタミンHともよばれる。
構造
生理作用 欠乏症
カルボキシラーゼの補酵素として二酸化炭素の転移を触媒。トランスカルボキシラーゼやデカルボキシラーゼにも関与。卵黄中にアビジンと結合して存在。 体重の減少,うつ病,食欲不振,口唇炎,皮膚炎
必要摂取量 多く含む食べ物
成人 30μg/日 ウシレバー,大豆などの豆・穀類,果物,野菜,卵黄,ローヤルゼリー
パントテン酸
化合物名  パントテン酸(pantotheinic acid)
 "至るところに存在する酸"という意味。
構造
生理作用 欠乏症
CoAや,アシルキャリヤープロテイン(ACP)の補酵素である4'-ホスホパンテテインの構成成分として,脂質の代謝を中心に機能。 エネルギー代謝の異常・障害(栄養障害,低血糖症,四肢の激痛,動悸,頭痛,悪心)
必要摂取量 多く含む食べ物
成人 5mg,妊婦 6mg 納豆,レバー, パン酵母, 落花生, マッシュルーム, 卵,牛乳,カリフラワー,しいたけ